
妙子さんから投稿頂いた「人妻の初恋」。
1 出会い
あれは今から三年ほど前のこと、わたくしが四十になったばかりの頃の話でございます。
そのころわたくしは町の役場の出先事務所で地域のいろいろな団体のお世話をする仕事をしておりました。もちろん九時から四時までのパートでございますが・・・。
五月も終わりの天気のいい日曜日でございました。わたくしの住む地域を流れる大きな一級河川で河川敷公園が完成いたしまして、その式典がございました。いろいろなイベントも催されました。たとえば、鱒の掴み取りとか、子供たちのための宝探しとか、ブラスバンドの演奏もありましたし、屋台なんかも出ておりました。
わたくしの家はその川に近かったものですから、一人で見に行きました。建設省の主催でございますから役場の人もたくさん来ておられました。もちろんわたくしの行っている出先事務所の人たちも。
その中に、ときどきお酒を呑みに誘ってくださる役場の中年の人がおられて、一度か二度見たことのあるような方とご一緒でございました。
とっても素敵な方で、そうですねえ、身長は百七十センチくらいでございましょうか、痩せていて、暗いお顔をしておいででした。休みの日でしたから服装もラフな恰好で、サンダル履きでございました。歳のころは四十代後半といったところでございましょうか。
その人たちは階段状になった堤防の上の方に座って式典を見ておられましたけれども、わたくしはその斜め下のほうで草の上に座って見ておりました。
わたくしはその方のことが気になって、ときどき振り返ってはちらちらと盗み見をしておりましたが、そのうちにその人もわたくしに気がつかれたのか、ときどきわたくしと眼が合うようになったのでございます。
〝変な女だな~ 俺に気があるのかな?〟と思われたんじゃないでしょうか。
そのあと、職場の人にお連れの方を紹介していただいて、イベントなんかはなるべくその人たちと一緒にいるようにしておりましたが、その方とはほとんど話をする機会はございませんでした。なんですかすごく無口な方でございました。
イベントも終わって、その人がお帰りになるときに、わたくしは思い切って、手づかみの生きた鱒を、水の入ったビニール袋に入れて差し上げたのでございます。
その人は、ちょっとびっくりされようでしたけれど、「ありがとう」と一言おっしゃっただけでした。
なにを考えたものでしょうか。たぶん、これきりにしたくないという思いが咄嗟の行動を取らせたのかもしれません。
それから一ヶ月ほども経ちましたでしょうか、そのときの職場の人に、いつもように飲みに誘われました。というより、アッシーとして利用されたのかもしれません。
そのお店は、入り口から奥に細長い造りになっていて、左側がカウンター席、右側が小上がりになっています。役場の本庁の男の人と三人で先にやりながら待っておりますと、その人が入り口からこちらに来られます。
わたくしは前もって聞いておりませんでしたので、もうびっくりしてしまいました。あっと思う間もなく、その人は靴を脱いでわたくしの前にお座わりになったのでございます。
どんな話をしたのでしょうか、まるで覚えがございません。ただ、わたくしはすごくはしゃいでいたような気がいたします。その人もあの時とはうって変わって楽しそうにしていらっしゃいました。
わたくしはあのときの〝マス〟の御蔭かな、などと埒もないことを考えたものでございました。
二次会は四人でスナックへまいりました。その人はカウンターの奥の端っこの席を一つ空けてお座りになります。わたくしはちょっと迷いましたが、すかさずその端の席に座りました。
普通でしたら、女はわたくし一人ですから、どこか三人の間に座るのでしょうが、このときはどうしてもその人の隣に座りたかったのでございます。でないとこれっきりになりそうな気がしたのです。
他の二人は意外そうにちらとわたくしのほうを見ましたが、わたくしは気付かない風を装って知らぬ顔をしておりました。そしてその方の表情を窺っておりますと、なんとはなし嬉しそうにみえたのはわたくしの独りよがりでございましょうか。
このときも何を話したものやらとんと記憶にございません。覚えているのは、その人のされた、山のダムの傍にある山菜の美味しいお店の話くらいです。わたくしは
「わ~ いいな~ 行きたいな~」
と甘えた声で応えました。
そろそろ帰ろうかというときでございました。少しの時間沈黙があって、その人は私の手の甲に掌を重ねられたのです。もちろんカウンターの下で、でございます。わたくしは年甲斐もなくドキドキいたしました。そしてその人は小さい声でこうおっしゃったのです。
「こんど行こうか?」と。

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