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始発までの共犯者

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aoyaさんから投稿頂いた「始発までの共犯者」。

表面上の再会
2026年1月。港区の少し高めの居酒屋で行われた、高校時代のクラス会。32歳になった直也は、大手IT企業でのポジションと、薬指の結婚指輪を武器に、無難な「成功した大人」を演じていた。


隣には、教育関係の仕事に就き、SNSでは「丁寧な暮らし」を体現する美咲。そして、フリーランスという肩書きで危うい魅力を放つ健斗。
「私たち、本当に大人になっちゃったね」
美咲が「理想的な日常」の写真を閉じると同時、全員のスマホに「大雪による運休」の通知が届く。

綻びゆく日常
タクシーも捕まらず、三人は健斗のセカンドハウスへ転がり込む。健斗が古いウイスキーを開け、直也の結婚指輪を指先で弾いた。
「直也の奥さん、これ見たらなんて言うかな」
その問いかけに、直也は「自由への渇望」が疼くのを感じる。美咲もまた、ストッキングを脱ぎ捨ててソファに深く腰掛けた。

非対称な背徳感
直也が美咲の肩に手を置く。指輪の重みが、逆に「壊してはいけないものを壊す」快感を増幅させる。美咲は教壇から生徒に語った「約束は守りましょう」という自分の声が脳内でエコーするのを聞き、その倫理的な痛みに酔い痴れた。


一方で、二人を煽る健斗は、自分のスマホに誰からも連絡が届かないことを一瞬だけ確認し、光を消した。二人と違い、守るべき生活も待つ人もいない。その「持たざる者」としての虚勢が、かえって二人を非日常へと誘う強烈な磁場となっていた。

沈黙の合意
「明日、始発が動いたら、また『立派な大人』に戻るんだろ? だったら今だけ、全部捨てようぜ」
健斗の言葉に、三人の視線が重なる。
暖房の吹き出し口から生暖かい空気が噴き出し、窓の外では雪が音もなく積もっていく。


誰かが「これは秘密に……」と言いかけて、その野暮な言葉を飲み込んだ。口に出さずとも、互いの瞳の中に「この一夜を墓まで持っていく」という冷徹な共犯関係が成立したことを悟ったからだ。
一人が二人を愛で、二人が一人を求める。そこにあるのは愛情ではなく、「完璧な日常」という仮面を共に剥ぎ取るという、残酷なまでに静かな合意だった。

翌朝の静寂と余韻
朝7時。雪が止み、電車の運行再開が告げられる。
三人は、何事もなかったかのように服を整え、スマホを確認する。駅の改札で「またね」と別れる際、昨夜の熱はもうどこにもない。


直也は帰宅する電車の中で、自分の左手の指輪をきつく締め直した。
車内のモニターには「信頼されるパートナーを目指して」という企業の啓発広告が虚しく流れ、スマホには妻からの「雪、大丈夫だった?」という通知が溜まっている。
失うものが大きいからこそ、あの数時間は、人生で最も鮮やかな背徳の味として刻まれていた。

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