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始まりの日

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大田さんから投稿頂いた「始まりの日」。

私の名前は、大田朋香といいます。北国のとある市役所で、今年の四月から働いています。年齢は28才、市役所勤務といっても、年齢制限に引っ掛かったので正規職員ではありません。
私が、毎日同僚から受けている、セクハラについて書くので、良かったら読んで下さい。

同僚は60才の山本佳司さんという方で、今年市役所を定年になった後、再雇用されている人です。

他の市役所は分かりませんが、私が働いている市役所では職員の服装は、規則で細かく定められています。全て上げるとキリが有りませんが、例えば女性職員は、特別な理由が無い限りスカートを着用すること。その際は、パンティストッキングを着用すること。色は、ベージュ又は黒とする、みたいな感じです。


スカートの長さについて決まってはいないのですが、私は膝上5センチくらいにしています。職場で着用する長さとしては少し短いのですが、私は身長が150センチと小柄なので、あまり長いと足が短く見えてしまうんですよね。
前置きが長くなったので、本題に入りますね。

始まりは、働き始めて一カ月程過ぎた、五月の頃です。北国の五月は、まだまだ寒いのですが、その日は記録的な暑さの日でした。お昼の休憩時間に入った時、いつものように私は化粧室へ向かいました。鏡の前に立つと、スカートの裾が思ったより高く上がっているのが気になりました。

足を少し動かしただけでパンストに微かな違和感が走る——よく見ると、左太腿の付け根あたりから、うっすらと銀色の筋が入っていたんです。
「しまった……」
そっと指先で触れてみました。パンスト特有の滑らかな肌触りの中に、素肌の触感があります。少し汗ばんでいるのは、記録的な暑さのせいだけではありませんでした。

実はその数分前のことです。私の席の隣に座る山本さんがふと立ち上がり、給湯室に向かおうとしました。その際、偶然にも私が自分のデスクから、書類を落としてしまいました。山本さんが一緒に拾ってくれて、しゃがんでいる私に書類を渡した際に、私の足元を見て——ほんの一瞬何かに気づいて、「おっ」と声をあげたんです。

山本さんはしゃがんだまま、取り留めのない世間話を私にしました。顔は、私の顔を見ているけど、目線はつま先から足首、ふくらはぎそして太腿を舐める様に見ていました。
「え?何か?」
「いやぁ……ただね」
山本さんは意味ありげに口元を歪めて、卑らしい顔をしていたんです。


化粧室に向かったのは、山本さんのあの視線から一刻も早く逃れたかったからなんです。あの意味深で粘り着く様な一瞥と、下卑た笑みが脳裏に焼き付いて離れなくて。同僚の鈴木さんが「ちょっと大丈夫?」
と声をかけてくれたけれど、
「ごめんなさい、すぐ戻ります」
と曖昧に答えただけでした。

トイレのドアが閉まる音と同時に、全身の力が抜けた気がしました。洗面台の鏡に映る自分の顔は青ざめています。冷たい水で手を濡らし、両頬を叩くようにして自分を奮い立たせたんです。
「しっかりしなさいよ……」
震える手でメイクポーチを開けるが、ファンデーションが上手く乗りません。頭の中は山本さんの粘つくような視線と声で一杯でした。


『伝線してるぞ』
……そんな言葉が耳奥でこだまする。直接言われた訳でも無いのに、どうしても意識してしまう。どうして私がこんな目に遭わなきゃならないんだろう?
ゆっくりと息を吐いて冷静さを取り戻そうとするが、ダメでした。左脚の付け根に走る一本の銀色の筋が妙に気になる。このまま戻るのはあまりに屈辱的だったのです。

気持ちを落ち着ける為に、一度個室に入ることにしました。トイレの個室のドアが閉まる音が消えた後も、静寂が重く圧し掛かかってきます。便座に腰を下ろし、額を押さえて深いため息をつきました。頭の中ではさっきの出来事が何度も再生されます。


『おい……伝線してるぞ』
あの声が耳朶にこびりついています。背後で聞こえた気がするのですが、はっきりと言われた訳じゃありません。それでも山本さんの囁きが、まるで生温かい息となって今も首筋に残っているかのようでした。反射的に左手が制服の襟元を握り締めます。職場規定のスカートが太腿の上で皺になっている。パンストの伝線箇所は左内股の付け根近く。普段なら気にも留めない程度ですが……


「どうしよう……」
小声で呟くと同時に携帯電話が鳴ったんです。画面に表示されたのは課長補佐・三浦さんの名前でした。
「はい……大田です」
『山本さんが急ぎの資料確認をしたいそうだ。すぐ席に戻れるかな?』
「資料確認……ですか?」
私は携帯を握りしめたまま、自分の手が震えていることに気付きました。どう答えるべきか迷った末、平静を装って返事しました。
「承知しました。すぐ戻ります」

電話を切ると深い溜め息が漏れます。心臓が早鐘のように打つのを感じながら、慎重に便座から立ち上がります。洗面台の前に立ち、鏡の中の自分の目を見つめました。動揺が瞳孔の揺れに表れています。鏡に映る姿は一見するといつもと同じ――市役所職員らしい整った身なりです。スカートの裾を軽く引っ張り整え、髪をチェックしました。


(落ち着け……過剰反応する必要はない。大事にはしたく無いし、全ては私の思い過ごしかもしれない)
職場に戻ると、山本さんは既に席に戻っていました。視線を感じて一瞬固まりました。案の定、デスク越しに私を見る目つきには、品定めしているかの様な意識を感じます。しかしそれ以上は何もなく、山本さんは無言でファイルを差し出しました。

ファイルを受け取ろうとした瞬間、山本さんの指が紙束に添えられたまま離れません。意図的に触れ合った指先に鳥肌が立ちます。
「ここ、重要なんだ」
低い声と共に山本さんの顔が不自然に近づきます。


「ちゃんと読んでおくんだよ?新人なんだから」鼻息が首筋を撫でる感触に私の背筋が凍った気がしました。
(また始まった……)
周囲を見回すが誰一人視線を合わせようとしません。鈴木さんは遠くで電話対応に追われていて、助けは期待できません。山本さんは、書類の下で触れ合った指を擦り付けながら、なおも話し続けています。永遠に続かと思われた状況でしたが、電話が鳴ったことで救われました。山本さんに電話を取次ぎ、私は昼食を買う為にその場を離れることが出来ました。

昼食後、自分のデスクに戻ってからも、続きがありました。
「大田君」
突然後ろから肩を叩かれ飛び上がりました。いつの間にか、山本さんが私の後ろに立っていたんです。その指が肩から背中を這うように滑り降ります。


「さっきの資料に変更あるんだ」
山本さんは、わざとらしく声を潜めました。
「重要なのはここ」
山本さんの顔が接近し、熱い息が耳たぶを撫でます。
「新しい事業……『若妻層』のニーズ把握って部分な」
私の右手が無意識にスカートの裾を押さえつけます。職場規定のタイトスカートがきつく食い込みます。


「山本さん……資料ならメールで……」
必死の抵抗も虚しく山本さんは手を離しません。
「いやいや直接の方がいい。特にキミみたいな娘には」
太い指が腰骨をまさぐるように動きました。
「若いって良いねぇ……」
周囲の空気が凍りつくのが、分かりました。鈴木さんはパソコン画面を睨み続け、三浦課長補佐は書類整理に没頭しているフリをしています。


私の喉はカラカラでした。
「あの……業務に戻っても……」
「まあ待ちたまえ」
山本さんが私の耳元で囁きます。
「そんな態度だと、来年の更新が出来ないかもしれないぞ」

「更新?」
私の声が震えました。山本さんの右手が執拗に腰に絡みついています。革靴が床を擦る不快な音が響きます。
「そうだよ、君は一年ごとに契約を更新して働く立場にある。それを決める権限は、総務部長にあるが、私も意見を聞かれるんだ。」


山本さんの唇が歪んだ。
「来年も働きたいなら、私に気に入られて損は無いと思うがな。」
周囲の空気が変わる。誰かが席を立つ音とコーヒーを捨てる音だけが異様に響く。鈴木さんが勇気を振り絞って叫んだ。
「山本さん!それはセクハラじゃありませんか?」
山本さんの笑い声がフロアに響く。


「セクハラ?」
山本さんは豪快に笑った。
「勘違いだな。これは業務指導だよ。大田君は、まだまだ緊張している様だから、色々気に掛けているだけじゃないか?」
鈴木さんの声が途切れる。課長補佐が咳払いしながら近づいてきた。


「まあまあ山本さん、確かにそういう言い方は誤解を招きますから。もっと丁寧できめ細やかな指導を……」
「だったら丁寧に指導すればいいのか?」
山本さんが腕組みをする。
「三浦さん、ここは一つ職員間の親睦を深める為、飲み会をやらないか?課内の職員全員参加で。ああ、私が言い出したのだから費用は全額私が出す。」
三浦さんを含め断る人は、誰もいない。


山本さんが続ける。
「では鈴木君、日時と場所の選定を頼む。費用は幾ら掛かっても構わないから、美味い店を頼むよ。」
こうして、親睦会の開催が決定した。

続きます。

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