「ぁっ…んん…ダメです先輩…誰か来ちゃう…っ」オレンジ色の光が差し込む教室に、女の声が響く。
「大丈夫だょ…もぅ誰もぃなぃから。それにこんなゆず見てて止めらんないよ」続けて少し低い男の声が響いた。「んんっ…ダメ…っ」
「ダメなの?ホントに?こんなに濡らしてるくせに…」男の指が、ゆずと呼ばれるその女の敏感なそこを…じらすように弄ぶ。その都度、女の高い声が教室に響く…「ゃ…ゃ…ァっ………?!」ぁれ…?!今…なんか…「…ゃめて先輩っ!!!」
ゆずは急に男を軽く突き飛ばした。「…ゆず?!どしたの?!」いま……いま、確かに見えたの……人がいた…!…どぅしよ…見られた…?!「ゆず…?」
「ごめんなさ…っあたし、…帰ります…っ」ゆずは乱れた服を手早く直して、男の返事を待たずに教室から飛び出した。見られた…?でもでも、ちらっとしか人っぽぃの見えなかったし……でも、声が聞こえてたら…???「あ゛ーっもぅ!先輩のバカッ!だから校内はヤだって言ったのょー!!!」
あたしは、篠原ゆず、高校一年生。彼、先輩こと菊地凌とは、体育祭のチームカラーが同じで、知り合った。そして、あたしが先輩に心底惚れて、告白して―…一か月前、晴れて彼氏彼女の関係になったのだ。そして今日、ついさっき…初Hを迎えようとしていたのに…「あぁ〜、もぅどーしょ…みんなにバレたら明日から学校行けないょぉ〜…」ゆずは頭をかきむしりながら廊下をとぼとぼと歩いていた。
一瞬のことだった。何者かが、ゆずの腕を引いた。「…っひゃ?!」
ドサッ…勢いよくゆずは尻もちをついてしまった。「あいたたた…も、何?!」「よう、篠原。」
「か…っ神崎?!」―神崎なつの。ゆずと同じクラスの男子で、目立つグループにいる。女にモテるが、良い噂は聞いたことがない。そんな神崎を、ゆずはあまり好いてはいなかった。
「なんでこんな時間までいるのよ…部活もやってないくせに…」「やー俺としたことが居残りだよ、居残り!期末が5点でさー、このままじゃ進級させられん!とか言われたし!!!」良く喋る男だ。先輩はもっとクールでかっこぃぃのに…同じ男でもこうも違うのか、ゆずは思った。
「あっそ…じゃあね。あたし帰るから。」「ちょっと待て。お前こそなんでこんな時間までいるわけ?」ゆずの頬に冷や汗がつたう。
「と…図書室で調べものしてただけよ…!」…バレた…?!…もしこいつにバレたらみんなに言うに決まってる…!ドク…ドク…「あっそ…ふーん…じゃあな。俺も帰るし。」ホッ…ゆずは胸をなでおろした。
「じゃ…じゃぁ」「…なーんちゃって☆」グィッ「な…何?!」
神崎はゆずを壁に押さえ付けた。「「じゃぁ」じゃないよ…篠原…さっきまであんなに色っぽい声出してたくせに…」しばらく沈黙の時間が流れた。ゆずの心臓の音だけが、静かに…確かに響いている。
見られていた。さっきのあの人影の主は、神崎だった。「な…何言ってんの?人…違いだょ…」
ドクン…ドクン…「まだそんな事言ってんの?…これでも…?」一瞬。神崎の唇がゆずのあかい唇を奪った。
「ふ…?!んん…っ!」ゆずは神崎の胸をドンドンと叩いた。しかし神崎は一向にやめる気配を見せない。それどころか、ゆずの両腕を左手で壁に押しつけ身動きが一切できないようにした。
「ふぁ…ぅぅー!」舌が、絡む…。「んん…んぐ…っ!」
ゃだ…なんか熱……もしかして…ぁたし、感じてるの…?こんなヤツのキスで…?!「んむぅーっんんー!」神崎は更にエスカレートする。余ったもう一つの手で、ゆずのYシャツのボタンを外し始めた。「んんっ?!んんー!!!」
何をするのか、と言いたいが口は塞がれ身動きもとれない。されるがまま、というのはまさにこのことだ。神崎の手がゆずの豊かな胸に辿り着くまでそう時間はかからなかった。 じらすように、そして試すように触れる…神崎の指。「ゃ…んん…!んぅぅ!!!」
今なお激しく絡む舌…そろそろ、息が苦しくなってきた。頃合を見計らってか、神崎は唇を離した。「はぁ…っは…ぁ…」しかし、休む暇なく…先ほどまでじらしていた神崎の指が、ゆずの乳首を突き出した。
「んぁ…っ?ゃぁ…だ…ぁっ!」今なお神崎は無言のまま、しかし指は激しくゆずを弾く。「ァッ…ゃだ…ぁあ…っ!」
―無言だった神崎が急にクスッと笑った。「…ホラね、さっきの声と同じ…やっぱり篠原じゃん。」熱かったゆずの身体は一気に温度が下がった。
「あんな…教室であんなことしてたの…みんなにバレたらどうなるだろうな?」ゆずの顔がみるみる青ざめていく。「黙ってて…ほしいよな?」
ゆずはこくこくと首を縦に振る。「…じゃぁお前、今日から俺のオモチャ。決定ね。」―俺のオモチャ。
ゆずはまだ、その言葉の意味をわかっていなかった… 眩しい… 朝だ。ゆずは伸びをしながら起き上がる。いつものように、陽の光で目が覚めた。
いつものように、…眠い。ただ。昨日とはひとつだけ違うことがある。
―俺のオモチャ。その言葉が頭から離れないのだ。…何されるのかな…暴力とかはさすがになぃよね…っ…あたしもしかしてこれからずっと……奴隷生活…?!「ゆずーっ早く起きなさーい」
母の声で我にかえった。「は、はーぃ!」「おはよ、ゆず!」
「あ、おはようマチ」ゆずがとぼとぼと通学路を歩いていると、一人の女子高生に肩を叩かれた。―彼女、七瀬マチ。ゆずの友達だ。いや、友達というより親友と呼んだ方が良いかもしれない。それぐらい二人は仲がよかったのだ。
「数学の宿題やったー?!あたし全っ然やってないんだよね…」陽気なマチは、高校に入学して初めてゆずに話しかけてくれた女の子。「あ、あたしもやってないっ!」
ゆずはそんなマチが大好きだった。「ねね、ゆず。聞いて聞いてっ」「?どうしたの?」
マチの顔はあふれんばかりの笑みでいっぱいだ。「あたしね、かっ彼氏出来ちゃったッ///」「…っぇえ?!ホント?!いつの間にっ!てか好きな人いたの?!」
ゆずは驚きを隠せずにいる。今まで男っ気が全くなかったマチに、彼氏…。心から祝いたくなったが、なんだか寂しくもなった。「黙っててごめんね、昨日告白して…ォッケーもらったんだぁ♪」「良かったねぇっ!で、相手は?!誰々?!」
「ぁのね、同じクラスの…」「おーはよっ、マチ、篠原っ!」マチの言葉を遮るように、男の声が割って入った。
「なっなつの君っおはよぉぉ!」―神崎だ。ゆずの頭によみがえる、あの台詞…オレノオモチャ。
一体、…何をされるの…?!ふとマチを見ると、…頬が赤い。…マチ?―そして、…ゆずは気付いてしまった。マチ…彼氏って…もしかして…?! ―マチ、もしかして・・・!「どしたの?ゆず。」
「え?ぁ、なんでもないよ!」だって今・・・神崎、マチのこと下の名前で呼んでたし・・・「・・・ゆず、さっき言ってた彼氏ってね・・・」
マチは、神崎の腕を組んで言った。「神崎君なのっ!」さっくり言われてしまった。
その言葉はいとも簡単に、ゆずの心に直に響いた。祝福できない。親友を、こんな―人を平気で脅したりするような男に・・・渡したくない。
でも、今のマチの幸せを壊す勇気は、ゆずにはなかった。「えっ本当?!あたし全っ然気付かなかったよー!そっかぁ、神崎、マチをよろしくね!」―嘘っぱち。
この男は何をするかわからない。「よろしく」など、頼みたくはなかった。しかし今は笑顔でやりきるしかない。
キ―ンコーンカーンコーン・・・「わっやばいよ〜!ゆず、神崎君、走ろ!」「う、うん!・・・?!」
「ねぇ〜もーうちら遅刻しすぎじゃない?こないだなんてさぁ・・・」マチは勢い良くふりかえった。「・・・ゆず・・・神崎・・・くん?」
そこには、二人の姿はなかった。「・・・もぉっ!何すんの?!離してよ!授業始まっちゃうでしょ!」―裏庭。
三人が走り出した時、神崎がゆずの手を引いてここまで走ってきたのだ。もう、先生・生徒は校舎の中。もちろんここにはゆずと神埼しかいない。「・・・お前、昨日俺が言った事覚えてるか?」
「は?な・・・?!」オレノオモチャ。思い出してしまった。
「お前は俺のオモチャなの、よってお前に拒否権はない。」「な・・・っバカじゃな・・・んん・・・っ?!」昨日のように、神埼の唇がゆずの唇を塞いだ。
そして、いつもよりワントーン低い声で囁いた。「お前さ、自分の立場わかってる?・・・バラされたくなかったら、ちょっと黙れ。・・・舌、噛むなよ。」―漆黒の闇に、のまれていく・・・
「ぁっ…んぐ…っ!」昨日とは違う、もっと激しくて熱いキス。「ゃぁだ…っん…ふ…っ…」
神崎はゆずの足に触れた。そして膝のあたりから上へ手をすべらせた。「ゃ…ゃめっ…何すん…!」ゆずはじたばたと暴れる。それに対して眉の端をつり上げて神崎は言った。
「ちょっと静かにしろ、暴れんなょ…」神崎は自分がつけていたネクタイを外し、ゆずの両手首に巻き付け結んで固定した。ゃだぁ…こんなの…怖いょ…「ゃめて…ゃだ…っ」
「ゃだ。止まんない。」神崎の手はついにスカートの中まで伸びてきた。パンツの上から、ゆずの秘部をいじめる。
「ゃ…っゃだ…ぁ…ッ」「やだとか言って…感じてんじゃん。…濡れてきてるよ…」ゆずの耳元で囁いた。
ゾクっとした。鳥肌が立ちそうだ。ゃだ…濡れるなバカ…ッ…感じるなあたし…っ!神崎の手は、指はゆずのそこを楽しむかのようになぞった。「ん…んんっ!」
ゆずは必死に声を押さえようとする。「無理すんな…声、出したきゃ出しとけ。」「ぃゃ…ぁ…ゃだぁ…っ」ゆずが泣きそうな声で嫌がっても、神崎は止めるどころか反応を楽しんでいるようだった。
そしてゆずの秘部に直に触れた。「ふぁ…っ?!」「ゃば…もーけっこ濡れてんじゃん…」
「やだ…っ違うもん…んぅ…っ!」神崎はそこをなぞり、そして少しづつかきまぜる…くちゅ、くちゅ と…音がする。「ふ…ぁ…っく…!」
「…篠原エロいよ…」神崎はほほ笑みながら言った。―指を、一本だけ奥へ挿入した。
「ひやぁ…っ?!…ゃ…ぁ…っ!」なにこれ…変だよあたし…っ…「ゃ…ゃっ…ぁ…んん…っ!」「篠原、ゃーらしぃ。昨日より声デカいよ」
「ぁ…ゃぁあ…っ!」なんだかもうわけがわからなくなってきた。神崎はなぜ、こんなことをするのか。
「ん…っふ…ぁ…あ…っ…!」マチと付き合ってるのではないのか。「…ここがいいの?淫乱篠原。」
神崎の考えてることが全くわからない。「ゃ…っく…そこだめ…おかしくなる…!」「いいじゃん、おかしくなりなよ…」
―ゆずは、快楽に溺れそうになる意識を食い止めることができなくなっていた。「ん…っゃ…は…ァ」とぎれとぎれに裏庭に響く、ゆずの声。
「篠原…めっちゃィィ声してんのな」「ゃ…ゃっ…ぁ…!」ゆずの秘部はなおも神崎にいじられ続けている。
が、それは急に止まった。「…?」ゆずは動揺した。
「…言っとくけど、俺本番はしないよ。…篠原から、『して下さい』って言うまでは…」「?!…バッ…カ…そんなの言うわけな…ァ…ッ!」言うと神崎はゆずへの行動を再開した。
「な…っぁあ…ゃぁ…だぁ…っ!」「ホントにヤなの…?ィィ顔してるくせに…俺には”とりあえず”『嫌だ』って言ってるようにしか見えないな…」そして神崎はもっとスピードを早めた。それどころか、ゆずの”一番良いところ”をピンポイントで突いて来る。
「ひゃ…ァア…ッぁ…んんっ…!」もうなんか…なにも考えられなくなってきちゃった…頭がぼーっとして…意識とびそうで……ただ、熱い。だからあたしは言ってしまったんだ。
「ぁ…っあ…ぉ願…します…神崎…の…入れて…くださ…ッア…!」「…ダメ。もっとちゃんと言って。」「神崎のを…あたしに入れて下さい…っお願いしま…っす…んんぁ…っ!」
「…合格。最高良くしてやるよ…」神崎は指を抜き、自分のものに避妊具をつけた。―そしてゆっくりとゆずの中へ挿入しだした。
「ャ…ッァ…痛…ッ!」苦痛に顔が歪む。「キツ…まだ入り口なんだけど…ちょっと我慢してろ」
ズズ…確かにゆずが待ち望んだソレは入ってきている。だがさっきのような快感は得られてはいない。「ゃぁ…痛いょぉ…っク…!」「全部…入った。ごめん俺我慢できね…動くぞ…」
神崎は腰を前後に動かし始めた。その都度ずちゅ、ぐちゅ…と音がする。「ひゃ…ぁあ…った…ぁ…!」スピードが早まる。ギリギリのところまで出して、そしてまた突っ込む。…その繰り返し。
ゆずの中で、だんだん痛みの中にわずかに快感の波がおしよせてきた。「ャア…ぁ…っぁああ…ダメ…っ壊れちゃう…ぁあ…っ!」「篠原…だめだ俺…ィク…っ」
「だめぇ…あたし…ゃ…ぁ…っあああっ…!」あたしは、こんな形で処女を喪失するなんて…思ってもみなかったのに。思えばあたしは純粋な子供だった。
そしてごく普通の人生を歩んで来た。人より少し勉強ができ、体育は少しだけ苦手。…そんな人生。もちろん少しのH知識はあった。友人から伝わって来たり…先輩から聞いたりで。
興味が全く無いわけでもなかった。ただ、あたしは好きな人と肌を重ねる行為に憧れていただけで、SMだの強姦だの、そーゆうことは汚らわしい。そう、思っていたのだ。
「…なんで…こんなことしたの…?」小刻みに震えながら、ゆずは神崎に尋ねた。「別に…ヒマだったから?でもお前だっていー顔してたじゃん」
神崎は笑いながら答えた。「…最低。あんた…マチと付き合ってるよね。なんであたしに手出したの?!」しかも、昨日から…付き合ったばかりだろう、とゆずはもう少しでブチ切れそうな感情を必死に押さえながら言った。
「…あいつ感度悪いんだよね。あいつとのHは…楽しくない。」パン…ッ!ゆずが神崎をはたいた音が、響いた。「あんたって…ホンット最低…!」
言って、ゆずは走りだしていった。「俺…バカか…?」一人神崎は呟いた。
最低なのは、あたしの方だ。わかってる。最終的に、してくれと頼んだのはあたし。抵抗しようと思えばいくらでも出来たのに、目の先の快楽に溺れて…親友の彼氏と…した。あたしには、先輩もいるのに…親友も、彼氏も、裏切った。…それに…自分への怒りを誰かにぶつけて、自分を正当化しようとして…神崎を叩いた。…本当最低だ…あたし…ゆずの頬に涙が伝った。顔を隠しながら、歩くスピードを早めた。すると―――ドンッ…―誰かとぶつかった。一瞬頭が真っ白になった。「ぁいたぁ…ごめんなさ……先輩…っ?!」
「ゆず?今来たの?」先輩はゆずの持っている鞄に目を向けて言った。「あ、はい…ね、寝坊しちゃって…」
寝坊したのは嘘ではない。が、遅刻の原因と直接繋がりはない。「そっか…」あたし…こんな嘘つける子だったんだ…「…ゆず、元気なぃな…どうかした?」
「えっ?!な、なんでもないです…大丈夫です!」「…今日学校サボっちゃぉか!遊び行こう!」 「ちちょっと先輩…どこ行くんですか?!」「どこでもいいよ!行きたいとこある?」
先輩はゆずを引っ張って、校門まで来ていた。今日は良く手を引かれる日だ、とゆずは思った。しかし。今のゆずには先輩の近くにいることは苦痛だった。それに今は、歩くのが少し辛い。
「あたし…今日テストなんです」「…俺といるのやだ?」先輩は少し情けない声で尋ねた。それに対しゆずは焦って答えた。
「いえっ!全然!」「じゃぁ、行こ?なんかゆず、元気ないみたいだし…気晴らし必要だよ!」強引なようで優しい…そんな先輩をゆずは愛しいと思った。
「…海、行きたいです…」「やっぱまだ寒いね」「…ですね」
当然のことながら、今は冬。寒くて当たり前だ。二人以外は誰もいない。場所間違っちゃったかなー…暫く沈黙が続いた。波の音だけが、耳に残る。先輩が口を開いた。
「…昨日ごめんな。」「えっ?!」「…学校でなんてやだったよな。」
思い出した。今の今まで忘れていた。「ホントごめん…それでゆず…元気ないのかと思って…無理やり連れ出したんだ。」もうどう償ったら良いのかわからない。自分はこの純粋な人を裏切ったのだ。
ゆずは何も言えなかった。「ごめんな…」「…っ大丈夫です…気にしてません!」
気にしていないどころか忘れていたのだ。ゆずはそんな自分に苛立ってしょうがない。「…本当?」「はい!あたし…先輩のこと好きだから…」
「なんか照れるね…」先輩は、少し笑って言った。「ですね」
ゆずも、笑って言った。…さっきのことは、事故よ。あたし…これからはちゃんと先輩だけ見て、先輩だけ愛して…二度とさっきみたいなことはしない…!絶対に…そして、そうするのが当然かのように、2人は軽くキスをした。「ゆずおはよう!」
昨日と似たシチュエーション。声の主は、もちろんマチ…「おはよ、マチ…とか…神崎…ッ」「よ、篠原」昨日、家に帰ってから考えた。マチのこと。神崎のこと。
マチには本当に悪いことをした。先輩と同じで償いようがない位。だけど、あたしの勝手な欲望で、今までマチと過ごした時間をブチ壊したくない。…手放したくなかった。これもあたしの勝手だけど、昨日のことは黙っていることにした。
神崎は…普通の友達のフリをする。そう決めた。しかし、今この二人を目の当たりにすると、正直動揺を隠せない。「もー、昨日二人ともいなくなっちゃうからびっくりしたじゃんっ!ゆず、お腹痛くなっちゃったんだって?大丈夫?そのまま帰っちゃったみたいだったから心配したんだよ」
「へ…ぁ、うん、心配かけてごめんね、もう大丈夫だよ!」腹痛…恐らく神崎の作り話だろう。この時ばかりは神崎に感謝した。「そっか、良かった!あ、ゆず!あっち!あっち見て♪」
マチが指差した方向には、先輩が一人で歩いている姿があった。「行っておいでよ♪」「うん…じゃあ教室でね!」
言ってゆずは先輩のもとへかけて行った。助かった。あれ以上あの場にいるのは辛かった。
…結局神崎の目を見ることは一度もなかった。「せ先輩おはようございます…!」「わ、びっくりした…おはよう!」
先輩はニッコリと笑って答えた。続けて、「今日も寒いね」と言った。「そうですね…体育持久走なんですょー泣けてきますよ!」
「頑張れ、教室から見ててあげるから」「やだー!見ないで下さいッ」いつも通りの、平和な会話だった。しかしまだゆずの中には何か黒い“モノ”があった。
「じゃあ、俺教室こっちだから」「はい、じゃあまた!」そう言って、ゆずは教室へ向かおうとした。
「ふーん、あいつの前じゃおとなしんだ。」この声は。「…神崎…」
「…だから何?」ゆずは冷たく言い放ち、早足で歩いた。途中、ゆずは気付いたように進路を変えた。
「…そっち教室じゃなくね?」「今日日直なの!日誌取りに行くのよ!」神崎は暫く無言でゆずの後をついていった。
「てか…別に…ただ、俺とは全然態度違うんだなー…と思って。」バカじゃないの、と言おうとした瞬間、「まぁどーでも良いけど…」神崎は言って、ゆずを職員室の前にある会議室へ連れ込んだ。
そしてその勢いでゆずを壁に押さえ付けた。「…なんかムカつく」「ちょ…っ痛い!やめてよ!」
「やめない。…わかってる?言うよ。みんなに。」「言いたきゃ言えばいいじゃない!あたしは何も悪いことなんてしてない!」もう、先輩以外となんて何もしない。そう決めたのだ。
「…お前なんか勘違いしてない?」「は?!」「俺が『言うよ』ってのは…俺と篠原が…ヤったこと。」
ゆずは暫く頭が真っ白になった。こいつは、どこまで最低なやつなんだろうか。ゆずは神崎を睨んだ。
「睨まれても、…怖くない。」神崎は片手でカーテンをしめつつ、片手でゆずの頬を軽く持ち上げて、唇を重ねた。…? なんかいつもと…違う 優しいキス…?…とろけそう。
もうすでに、ゆずは自分の秘部が濡れ始めているのがわかった。…またあの感覚が、来る。神崎はゆずのカーディガンをまくりあげ、ブラジャーの上から、少し揉むように触った。
ゆずの抵抗しない様子を見ると、神崎は更にエスカレートした。直に触れた。そして突起を丹念に弄る。
「ふっ…んん…!」ゆずの甘い声が、会議室に響いた。神崎は、かたく閉じられたゆずの両足を、右足でこじあけた。
キーンコーンカーンコーン…始業の音。今はもう、二人にはお互いの吐息しか聞こえていなかった。「…ごめん。」「…は?」
神崎からの急な謝罪に、ゆずは目を丸くした。「違うんだ…ごめん…ほんとごめん…」「…何?急に…」
なにがなんだかわからない。神崎は暫く黙って、そして口を開いた。「俺…篠原のこと好きなんだ…」
「……っは?!」神崎からの突然の告白に戸惑いを隠せないゆず。「え…だって…神崎マチと付き合って…マチが好きなんでしょ?!」
「違う…篠原、彼氏いること知ってたから…諦めようと思って他のやつと付き合ったり…遊びまくったりしてただけ…」ゆずは頭が真っ白だった。神崎が、自分を好き? そんなこと、あるわけがない!だって神崎の自分への態度は明らかに「好きな人」に対する態度ではないから。「嘘でしょ…」
「嘘じゃない。ほんとはこんな…脅しなんてするつもりなかった…けど…」少し間をおいて、また話し始める。「こなぃだ…篠原と…篠原の彼氏が教室でヤろーとしてんの見たら…いてもたってもいられなくなって…」
ゆずは赤くなった。あの時…長い沈黙。この沈黙に、先に耐えられなくなったのはゆずだった。
「…馬鹿言わないで…っ!」言ってゆずは会議室から飛び出していった。ガラッ「なんだ、篠原遅刻か?」
授業中の教室へ、ゆずは駆け込んだ。「すみませ…腹痛で…」「そうか、大丈夫なのか?」
「はぃ…大丈夫です…遅れてすみませんでした…」しかし、ゆずの心臓は確かに早く大きく音を立てていた。そんなゆずを、誰よりも注目して見ていたのはマチだった。
「ゆーず、お腹痛いの?大丈夫?」休み時間。マチがいつものようにゆずのもとへかけよってきた。
「心配かけてごめんね…もう大丈夫だから…」「そう?無理したらだめだかんね〜!」優しいマチ。いつも優しいマチ。しかし、その優しさが今のゆずには苦痛だった。
数十分前…自分はこの優しい親友の彼氏と淫猥なことをしていた。しかも、その男は自分を好きだと言う。この状態で、平然としていられる人間がいるだろうか…少なくとも、ゆずはそんな性格を持ち合わせてはいない。
少し様子のおかしいゆずに、マチは問い掛けた。「ゆず…なんか隠し事してない…?」「…何も?」
神崎の真意が知りたい。さっきは驚いて逃げてしまったが、今切実にそう思っている。昼休み、ゆずは神崎の姿を求めて校内中歩き回った。どこにもいない。
残る場所は…ゆずは階段を駆け上がり勢い良くドァを開いた。古くて重いそのドァは、キィと音をたてた。「…っ」眩しい。
陽の光がゆずを包む。ようやく目が慣れたところで、ゆずは辺りをきょろきょろと見回した。やっぱりいない。
もうじき昼休みが終わる、諦めて教室へ帰ろうとした時。…コッ…カランカラン…振り替えるとひとつの空き缶。ゆずははしごを使ってさらに上へ上った。「…いた…」
そこには呑気に寝転んでいる神崎の姿があった。「間抜けな顔…。」起きる様子がない。
「…神崎の…ばーかばーか」「…んだとこのゃろっ!」神崎は突然起き上がって、頭の上で軽く結ってあるゆずの髪をはたいた。
「うわっごごごごめ…っ」って…なんであたしが謝ってんの…こいつといるとほんと調子狂う…「…っじゃなくて!…今朝の話…」一瞬神崎の顔が引きつる。
「…本気なの?」「いくら俺だって冗談であんなこと言わねー…」「…って…」
「え?」「だからって…あんなことしていい理由にはならない…!」ゆずは少し泣きそうな顔で訴えた。
「…ごめ」「ごめんで済んだらケーサツぃらなぃから!」いつになく金切り声に近いゆずの声に神崎は少し動揺した。だがすぐに態勢を立て直し、言った。
「お前だって悪い…」「…は?」「教室であんなことすんなよ…」
「だってあれは」「俺の気持ち!…かき乱すなよ…頼むから…」泣きそうな神崎の声にゆずは少し驚いた。 今までゆずは神崎を好きではなかった。女関係にだらしがなく、節操もなかったから。
でも、もしかして神崎は…沈黙の時間が流れた。「…かんざき…?」心配そうな顔と声でゆずは神崎の顔をのぞきこんだ、瞬間。
神崎はゆずを押し倒した。「何…っ神崎…怒るよ?!」「ごめん…篠原、ホントに嫌なら俺のこと突き飛ばして逃げて。殴ったっていいから。ホントに嫌なら…」
「…か…んざき…」神崎の切なげな表情と声に胸が苦しくなった。こんな神崎は見たことがない。
もしかして神崎は、本当はとても純粋な心の持ち主かもしれない。体が動かない。突然、神崎はゆずの首筋に舌を這わせた。
「ひ…あっ…」淡々と、カーディガンのボタンがはずされる。シャツも。すべて、神崎の手によってはぎ取られていく。不思議なことに、嫌な感じが全くしない。
神崎は、すでにたったゆずの胸の突起に唇をあて、舌で転がす。「ひゃぅ…ぁ…っあ」以前より敏感になったゆずのカラダは、神崎の愛撫を素直に受け止めている。
「ゃ…っだ…め…かんざき…っ」「ホントにダメなら俺の背中ひっかいてでも止めて。俺もう止まんないから」言いながら、神崎は愛撫を続行している。いやらしく舌の音をたてながら。
「ゃ…ふぁ…ァッ…!」神崎はぱんつの上からゆずの秘部をなでた。もう、濡れているのがわかった。
そして、直に触れた。「…あ…っゃァ…!」神崎は自分が触れる度に甘い声を上げるゆずが愛しくて仕方なかった。
指を、ゆずの中へ入れ、動かす。「ふぁ…ゃ…だめ…ゃあ…!」また、このまましてしまうのか。
もう先輩以外とはしないと決めたのに。でも、もう止まらない。キーンコーンカーンコーン…予鈴の音によって、ゆずのケータィの着信音は書き消された。
「ぁっ…んん…!」ゆずの声が、青空の下に響く。神崎の、前とは違う、優しい抱き方。
想われているのが、苦しいほどわかる。だ めだ … また…あの感覚が… くる…「篠原…入れるよ?」「…うん…」
そしてゆっくりと…また、裏切りの行為。「ぃ…っん…んん…っ!」前ほどではないが、痛みが走る。
「篠原…痛い?」痛いと言っても、やめる気はないが。「だ…いじょ…ぶ…っふ…」
「…動くよ」神崎は激しく腰を降り出した。まるで何かの感情をぶつけるように。「ひ…っゃあ…ぁあ!」
痛みが、また、違うものに変わっていく。―快感。「ゃ…だめっ…だ…っ壊れちゃ…ァッ!」
神崎は、なおも激しく動く自分の背中にしがみつくゆずを本当に愛しいと想った。しかしその反面、めちゃくちゃに壊してしまいたいとも想った。更にスピードを上げる。
「ゃ…っそんな…いきなりはげしく…したら…っぁ…っ!」「おま…っそんな力いれんな…っ」神崎にしがみつく腕にも、神崎を受け止める秘部にも、自然と力が入ってしまう。
「そ…なこ…っ言ったっ…て…ぁ…っ!」吐息がまじって上手く喋れない。それぐらい、夢中になっていた。「…しのはら…っ……す…きだ…っ!」
言って神崎は、絶頂を迎えた。着信あり2件先輩マチ「もぉ〜ゆずどこ行ってたのょ〜っ!電話出ないし心配したよっ」「ごめーん、生理重くって…」
「えっ大丈夫?」「うん、薬もらったから今は平気だよ!てか授業中に良く電話出来たね笑」「トイレ行くふりして一瞬抜け出した☆…あ、なつの君!どこ行ってたんだよぉ〜!」
二人の背後から、神崎。「ぃや、プリンがどーしても食べたくなって笑マチのもあるよ。食う?」5時間目が終わり、二人は教室へ戻ろうとしたが、一緒に行っては怪しまれるだろう、と、時間差で教室に入った。
「あ、ごめんあたし電話してくるね!」「お?先輩かあ〜?ラブラブめっ!行ってらっしゃ〜い」マチに見送られ、ゆずは教室から出ていった。
…もう、戻れない。―あたし…神崎が好きだ。まだ、あたしを脅したことを許したわけではない。許せることでもない。
だけど、そういう理屈ではなく…ただ、惚れてしまったのだ。あの、純粋で不器用な男に…。でも、言えない。
怖いから。大切な人を二人も失うのが、怖いから。これはあたしの我儘だ。
プルルルル…『ゆず?』「はぃ、あたしです。」『さっき電話したんだけどさぁ、良く考えたらゆずまだ学校だったよな〜』先輩の学年は、今日は午前授業だった。「そぉですよ、いきなりバイブきてびっくりしましたよ〜!」
『そっかぁ、ごめんなー!で、さ…今日放課後空いてる?』「あ、はい。ヒマですよ」『じゃあ…うち来ない?…誰もいないんだけど…』ピンポーンカチャ…「ゆず、いらっさぃ!」「…お邪魔します」
先輩の家に来るのは初めて。全体的に淡いクリーム色の外装で、とてもかわいらしい家だ。家に呼ばれた。そして家には誰もいないと言う。
つまり、もちろん…そういうことになるのは確実だろう。それなりの覚悟はしてきた。「先俺の部屋行ってて〜!階段上がってすぐだから」
「あ、はい」言われた通りに、ゆずは階段を上りすぐ右手にあるドアを開けた。―先輩の、部屋。
思ったよりも片付いている、というよりほとんど物がない。必要最低限の家具、本棚…先輩らしい。「なんで立ったままなの笑座りなよ」部屋を眺めていたら先輩が後ろからお茶を持ってやって来たのだ。
「あ、はい!」「ゆず、来てから『お邪魔します』と『はい』しか言ってないねそんな緊張しなくて良いから笑」「ははい…」
「ほらまた」「…!すみません」「ゆず…最近元気ないのな。どうかした?」
…先輩は、なんでもわかっちゃうんですね。いつもそうだった。先輩は、いつも一番にあたしのこと考えてくれて、気遣ってくれて…そんな先輩だから、好きになったの。でも、今は…苦しいだけブーブーブー「ゆず携帯鳴ってるよ」「あっはい…っ」
「「あ」」ゆずが携帯に手を伸ばしたその時、コップにブレザーの袖があたり倒れた。「すすすすみませ…お茶が…っ」
「いーよ、今拭くからヘーキ」何やってんだあたし…「服濡れてない?」「あだ大丈夫です…っ」
―時が止まったように思えた。あたしは今…他の男を思いながら、先輩と唇を重ねている。そのままベッドに倒れこむ二人。
これから、あたし…先輩とするんだ。あの時、―教室で人影…神崎を見掛けることがなければもうしていたであろう、愛の行為。先輩がゆずの首筋に軽く舌を這わせる。ゆずのカーディガン、シャツのボタンを慣れた手つきで外していく。
―これで、いいんだよね。あたしが先輩をまた好きになれば…神崎のことなんて、きっとすぐに忘れられる。でも先輩の、神崎とは違う、抱き方…じらし方……愛し方。
ひとつひとつが……“違う”「ゆず…なんで泣いてんの…?」「…ごめんなさ…あた…し…っ先輩とは…できませ…っ…」いつの間にこんな身体になってしまったんだろう。
いくら先輩を見ても、先輩を感じても、…思い出すのは…身体が求めるのは…神崎…「…なんとなくわかってた。」「え…」「ゆず、好きなやついるんだろ。…俺以外に。」
先輩…気付いてたんだ…「誰だかはゎかんねーけど…いつも上の空だし…海行った時ぐらいから…変だなって…」気付いてて、あんなに優しくしてくれた。「…出てって。これ以上ここいたら…俺無理やり襲うかもしんないから。」
「先輩…っ」「…出てけって…でも俺は…ゆずの幸せ祈ってるから…不幸になんかなったら許さねーから…」どうしてあたしはこの優しい人を裏切ってしまったんだろうか。
どうして神崎じゃないとだめなんだろうか。わからない。わからないけど…「…ごめんなさい…」
ごめんなさい。ごめんなさい。ありがとう…そのまま先輩の家から飛び出した。
先輩…本当に、好きでした。すごくすごく、好きでした。…誰よりも。
でも、あなたより愛しい人が現れてしまったんです。あなたのおかげでこの気持ちが揺るぎないものだと気付きました。本当に、ありがとう。
「…篠原?」交差点で誰かに話しかけられた。声の主は…「…かんざき…っ?!」「お前そんな走ってどうしたの」
「あ…たし…っあんたに…言わなきゃいけな…ことが…って…!」「落ち着けっ!てか、俺も話あんだけど…つか公園行かね?ここじゃ話づらいし…」「…うん」少しだけ桜が咲いているが、まだ肌寒い公園。二人はベンチに座った。
無言が続く。神崎…いつもの学校生活じゃ考えらんないくらい顔が真剣……あたしさっきまでの勢いどうしたんだろ…言わなきゃいけないのに、口が開かないよ…「俺さ…マチと別れたよ。」「…えっ」
「マチには悪いことしたと思ってる。好きじゃないのに付き合うなんて最低だよな…」「…」「でさ、俺別れたけど、別に篠原に俺と付き合えとは言わない。そりゃ俺は篠原好きだから付き合えたら…って思うけど、篠原にはあの先輩がいること知ってるし…篠原のこと…諦めることにしたんだ」
「…神崎あのね」あたしも別れたの、と言おうとした時遮られた。「だから明日からは友達やってくれるっ?!」
神崎は真剣な顔をいつものおちゃらけ顔に戻して言った。「神崎ちが…っ」「んじゃぁ、明日学校でな!」
「かんざ…っ」「ばぃばーぃっ」言って神崎はゆずから離れていった。
神崎の姿が、遠くなっていく。ゆずの中で、何かが切れた。「…神崎の…ばかやろーーーーーーーーーーーー!!!」 「…?!」
突然のゆずの大きな声に神崎は驚き、ふりむいた。「あんたばっかり言いたいこと言って逃げてんじゃないわよ…っあたしの気持ちは無視なわけ?!」「え…だって」
「あたしは!」神崎の言葉を遮って言った。「あたしは…あんたなしじゃいらんないカラダになっちゃったの…」
「…え?」「あたし…神崎が好きなの…!」「…へ?!」
神崎はゆずの告白に驚きを隠せないでいる。「ホントなんでこんなやつ好きになっちゃったのかわかんない…あたしのこと脅して…エッチとかするようなやつ…友達の彼氏だしさ…!」ゆずは制服のスカートをくしゃくしゃに握って、涙をこぼして言った。
「でも…わかんないけど…神崎が好き…好きなの…」「…どーゆー…こと…?」「…マチ…?!」
悲しい目をして、マチは言った。「あたし…なつの君がゆずのこと好きなの…気付いてた。いつもなつの君は…あたしじゃなくてゆずを見てたから。」マチ…気付いてたんだ…当たり前だよね、好きな人のことだもん…様子がおかしいのなんて…すぐわかるよね……先輩も…「なつの君に…「別れたい」って言われて…ゆずとなつの君…付き合うのかなって思った…でもあたし…それでもしょうがないかなって…」
マチの目に涙がうかぶ。それが、溢れて、頬を伝う。―その目が、どんどん怒りに変わっていくのがわかった。「…でも…今の…何?本当なの…?ゆずとなつの君…エッチした…って…まだあたしと付き合ってたのに…?!」
「…マチ聞いて」「何?!今更何も聞くことなんてない!ゆずとなつの君が…したってゆうのは本当なんでしょう?!それで二人ともなんにもなかったみたいにあたしと話したりしてたんだよね!…最低!」ゆずはその場から去ろうとしたマチの腕を掴んだ。
「待ってマチ…!」「触んないでよ嘘つき…!!!」 嘘つき。最低の嘘つき。
学校を休んで今日で4日目。学校を休めばいつもメールがくる。先輩、それに…マチから。
「大丈夫?」「早く治してね」「ゆずいないからヒマだったよ〜」
そんな言葉は、今はもうない。4日前、失ったから…ベッドの中で静かに方を震わせていると、玄関で話し声がした。「ゆずー、お友達がみえたわょ。」
お友達…?カチャ…ゆずはふとんから顔をだした。するとそこにいたのは…「…神崎…」「…久しぶり。なんとなく連絡しづらくて…来ちゃった。迷惑だったかな」4日ぶりの神崎の姿に、涙が出そうになった。
が、堪えてこう言った。「ううん…嬉しい……ありがと…」「あ、これ学校のプリント。4日も休んでっから宿題とかちょ〜たまってんぞ!」
「嘘!最悪…」「ってかお前痩せたな!」「マジ?やったね」
他愛もないような、話になりそうだったが、神崎によってそれは実現されなかった。暫くの沈黙の後、神崎が口を開いた。「…マチのことなんだけど」一瞬、ゆずは針で刺されたような痛みを感じた。
「あいつも学校休んでんだよ…」…ドクン…「そっ…か…」堪えたはずの涙が溢れ出した。
自分のせいで、マチが苦しんでいる。今、それを実感したのだ。なんで…こんなことになっちゃったのかな…「ゆず…っ」神崎はたまらなくなって、ゆずの小さな肩を思いっきり抱き締めた。