俺を男にしてくれた人…忘れません…

俺の親父には兄弟が多い。一番下の叔母にあたる摂子さんは俺と10才違いだった。

年が近いせいもあって、親の世代という感覚はなかった。日本風の顔立ちだが歯並びがきれいで美人だった。摂子さんは俺が小5の時に地元を離れ都会に出た。7年後に体を壊して帰郷した。

親父の実家で療養生活を送っていた。摂子さんとそりが合わないおふくろは『あの女は悪い男にだまされた』とか『借金を背負わされた』とか耳を塞ぎたくなるようなことを言った。俺は大学進学が決まり、地元を離れることになった。挨拶がてら親父の実家に行った。

そこに摂子さんもいた。久しぶりに見た摂子さんは頬に赤味もさし、いつもより元気そうにみえた。外は小春日和だったので、俺の付き添いで摂子さんと散歩に出た。

歩きながら摂子さんは都会であったことを話してくれた。摂子さんは少しお人好しなだけだった。春の日差しの中で摂子さんはきれいだった。笑顔が素敵だった。

俺は摂子さんを親戚の間柄だけではなく、初めて異性として意識した。祖父の勧めもあって、その日はその家に泊まることにした。祖母が二階の部屋に布団を敷いてくれた。ふすまを隔てて摂子さんが寝ていた。

寝静まったある時、隣の部屋からうめき声が聞こえてきた。俺はそれで目をさました。「うっ…んっ…んっ…うっ…」俺は飛び起きて耳をすましてみた。

「んっ…んっ…」確かに聞こえる。摂子さんの声だ。容態が急変したのか?昼間はあんなに元気だったはずだ。

俺はふすまを開け、隣の部屋に飛び込んだ。「摂子ねえさん!どうした!?大丈夫?」薄明かりの中で摂子さんの様子をみた。布団をかぶっている。

「待ってて!今、救急車を呼ぶから!」その時、摂子さんが俺の腕をつかんだ。「待って!違うの。」

摂子さんのか細い声が聞こえた。「え?」「違うの。違うの…」

「違うって?」「苦しい声じゃないの。ア、アソコを触ってたの…」「え!?」

「研ちゃんのこと考えてたら…ガマンできなくなって…」摂子さんが俺のことを考えて?…「お願い…誰にも言わないで…だまってて…お願い…何でもするから…」「…」

俺は頭が混乱した。摂子さんの知ってはいけない秘密を知ってしまった。俺はまだいいとしてもこれは摂子さんがつらすぎるだろう。

俺のことを思い出すたびにビクビクして生きて行かなきゃいけない。俺はとっさに同じ立場になることを考えた。「摂子ねえさん、ひとつだけ俺のお願い聞いて…」

「何?何でも聞く…」「俺を…男にして下さい。」「…」

摂子さんは何も言わなかった。俺の気持ちが伝わったのかどうかわからないが黙って俺を抱きしめてくれた。今になって思うとこんな幼稚な考えが最善だったとは思えない。

でもその時は気持ちが楽になった。「ありがとう…」摂子さんはそう言いながら、俺の頭をやさしくなでてくれた。

その時、摂子さんの中に菩薩を感じた。摂子さんと俺は重なった。初めて味わう女性の吸いつくようなやわ肌だった。

とても温かいものが俺を受け入れてくれた。俺はもうひとたまりもなかった。「いい…中で出して…うれしい…」

摂子さんは俺の背中に手を回し力をこめた。俺は程なく果てた。「研ちゃん…ありがとう…」

「…」俺は何も言えなかった。この人はなぜ不幸なのか…涙が出そうになった。

俺は地元を離れた。アルバイトをしながら大学へ通った。少しずつではあるが摂子さんは回復していると聞いた。

俺もそれを励みに頑張った。1年後、俺のもとに訃報が届いた。『摂子が亡くなった…。』親父の声が震えていた。

29才の若さで摂子さんは旅立った。俺は葬儀に参列できなかった。下宿の布団の中で号泣した。男泣きに泣いた。

摂子さんは俺の最初の女だった。それととともに俺が摂子さんの最後の男になった。摂子さんは死ぬ間際まで「研ちゃんに元気をもらった…」

と、つぶやいていたらしい。葬式に出られなかった代わりに墓には毎年手を合わせに行っている。それがせめてもの供養になると信じている。

この世では幸せをつかむことができなかった摂子さん。せめて天国では幸せでいてくれることを祈る。

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