旅先で出会ったかわいい彼女との初体験、寝取られそして別れ 超長編

バイト先の毅然とした巨乳の主婦と道場の女の子 超長編
スナックで出会った台湾人ホステスとの生で中だしセックスした 長編
の続編

数年間の海外勤務を終え、帰ってきた俺は、既に年齢二十台後半だった。

そろそろ嫁さんを探す必要を感じていた。
ヨーロッパで現地の女性を見てきた俺は、結婚するなら日本人と心に決めていた。

日本女性は素晴らしい。世界一だと思う。
最近はそうでもないかもしれないが、俺の当時は未だ旧き良き日本の伝統を受け継いだ女性がいた。

また、優しさや気配りや、文化の中ではぐくまれた何とも言えない美しいものが、日本女性の中にはあると思う。
竹の子ギャルが俺の時代にはいた。橋にも棒にもかからないと言われる彼女らも、実際に話をしてみると、日本人の優しさや思いやりなどを持ち合わせている。

Mでバイトをしていた時にも、パープリンと言われていた子達がいるが、一見馬鹿だがそれでも仕事は真面目で、正直だった。

ヨーロッパで、そういう美徳と関係ない女性を沢山見た。
仕事ができるできないではない。

美しい女性は多い。ブルックシールズもかくやと思わせる美女も、結構いる。
笑顔が美しい、魅力的な女性。話していて楽しく、聡明な女性。

小さな露店の店先に時々はっとするほど美しい少女がいたりする。
心を開いてくれた時に見せる、親しげな表情。

抜けるような青い空の下、民族衣装を着て踊る少女たちの輝き。
だが、人間としての根っこの部分で、どうしてもヨーロッパ女性に違和感を覚える自分がいる。

国名は勘弁して欲しい。個人が特定されかねないから。
かの国では、離婚率が50パーセント近い。

二組に一組が離婚する。
何故か。俺には分かるような気がする。

俺は色々アンテナを延ばした。
焦ることはない。

Mちゃんのような子はいないだろうか。

彼女は既にカナダに渡っており、幸せな結婚生活を送っていると聞いた。
俺は多忙だった。仕事量が多い上に、勉強しなければならい事が山ほどあった。

古武道の稽古も相変わらず、時間の許す限り行っていた。
女性と知りあう機会など、持てそうになかった。

見合い話が来るようになってきたが、俺は恋愛にこだわった。
やがて必ず最善の伴侶に巡り合えると、俺はかたくなに信じていた。

俺達の勉強グループの夏季合宿が、信州の女神湖近辺で行われた。
法務に関しての合宿で、国内商法と海外のそれを比較検討し、そのトラブル等の事例研究を行なった。俺の実務と契約など深いところで関連のある勉強会だった。

勉強に疲れた俺と友人は、車で女神湖周辺を走った。
景色の良いところで車を止め、湖面を見ていると、そこに二人の若い子が写真を撮りあっているのが見えた。

俺達は近づいて、「写真を撮ってあげましょうか?」と話しかけた。
二人は顔を見合わせ、それからニッコリ微笑んでカメラを俺に渡した。

2人はこの近くにある大手銀行の保養所から遊びに来ていた。
一人は長身で、グラマスな体つきの美人。

もう一人は小柄でやせ形、大きな目がくるくる動く可愛い子だった。
2人の写真を撮ってあげた後、色々話をした。とても良い子達だった。

2人は俺達の写真を撮ってくれて、現像ができたら俺達に送ってくれることになった。

ナンパしたことになるのだろうか?俺達には下心はなかったし、楽しく話をしただけだ。

俺達は2人に住所を教えた。俺は2人の住所を聞いてみたのだが、にっこり笑って応えなかった。
合宿所に戻る道すがら、車中にはボズスキャッグスの「2人だけ」がかかっていた。

これは名曲だと思う。この曲が何となく浮き浮きした俺達の心を代弁してくれているようで、合宿所ではハードな勉強が待っているにも関らず、俺は心がほかほか温かかった。

これが俺と智子の出会いだった。

俺達は半分同棲まで進む。が、最後は別れた。

彼女には、股関節脱臼という障害があった。
俺がどれだけ苦しんだか、後になっておいおい書いてゆく。

写真撮影からしばらく待ったが、彼女等から写真を送ってこなかった。
俺達は半分諦めた。まあ、たまたま会っただけで、ご縁が無かったということだと。

半月ほど過ぎたころだろうか、突然写真が送られてきて、封筒には、住所と電話番号が記載されていた。
俺達は早速2人に電話して、お礼のご馳走をすることにした。

2人は俺達の誘いに快くOKしてくれた。
俺達は4人でレストランに入った。

高層ビルのちょっとしゃれたレストランで、暗い照明にキャンドルが付いている。
夜景がとても綺麗だ。 夜景は、人間が作り出したものの中で最も美しいものの一つだと思う。

俺達はコースを注文し、ワインで乾杯した。
大柄な子は敬子といい、小柄な子は智子といった。

俺は敬子が好みだった。が、俺の友人も敬子を選んだようだ。
敬子の方に多く話しかけるし、敬子もまんざらではなさそうだった。

俺は智子と主に話をするようになり、何となくカップルのようなものが出来上がってきてしまった。
今から思うと、不謹慎なようだが、デパートで商品を選ぶような感じだったろうか。

「おい、どっちを取る?」
「俺は大柄な方だ、良いか?」
「しょうがねえな、OKだ」
「よし・・・・」

こんな会話が視線で交わされたし、向こうも同じだった。

何故あの時選び選ばれたのが智子だったのだろうか、俺は今でも不思議に思う。
もし敬子を選んでいたら、俺は・・・・

敬子も智子も大卒で、敬子は自宅から通っていた。

智子は東北地方の国立大学を出て銀行に就職。
といっても、東北大ではない。俺達の時代では国立二期と分類されていた学校だ。

大学では結構優秀な学生で通っていて、意気揚々と銀行で働きだしたのだが、すぐに行き詰まってしまったのだという。
初の一人暮らしの寂しさもあり、精神的にちょっと参っているようだった。

俺は、彼女の話をじっと聞いたうえで、「困ったことがあったり、迷ったことがあったら言っておいで」と、人生の先輩風を吹かせた。

男女の関係は、進むときはあっという間に進む。
停滞すると、それがいつまでも続くことが多い。

レストランから出たときには、二組のカップルが当然のように出来上がっていた。
俺は智子と。友人は敬子と。

俺達は4人で色々話しながら、さり気なく二組に別れるきっかけを掴もうとしていた。
信号で渡りきるか戻るかで、ちょうど二組に別れた。

俺達は視線で合図を交わし、離れ離れになった。敬子、智子も文句も言わずに別れた。
俺と智子は、夜の雑踏を歩いた。

足早に通りすぎる人を避けながら、余り話をせず、かといって不満な気持ちでもなく、軽い充実感を覚えながら歩いた。
智子の肩や腕が、さりげなく俺の腕に触れる。

手の甲同士も、触れ合った。俺は、タイミングを計って智子の手を握った。

彼女ははっとしたように目を見開いてこちらを一瞬見たが、そのまま黙って俺に手を握られたまま歩き続けた。
俺は彼女をちらちら見た。

可愛い子だ。やせ形で小柄、鼻が高く、目がぱっちりと大きい。
俺は、一緒に歩きながら彼女と真面目に付き合ってみたいと思った。

出会った縁を大切にして、俺は彼女を大事にしようと決めた。

「また連絡してよいですか?」
「ええ・・・・」

その夜、俺の友人と敬子はホテルでベッドを共にした。

敬子は大卒だった上、肉感的だったので遊んでいるかと思いきや、意外や意外処女だったそうだ。
友人は良い奴だった。が、少々手癖が悪かった。

彼にとっては、敬子も遊びの関係だったのかもしれない。
が、敬子にとっては友人が最初の男性。

敬子は友人が好きになり、彼女も後にまた苦しむことになる。

俺は経験から言うのだが、真面目に付き合う男女はそう簡単に結ばれたりしない。

俺達の時代(昭和31年生まれ)は、お互いに無意識に求め合っていたとしても、結ばれるまでに時間がかかっているケースが多いように見える。

第一、出会いの場はそう多くなかった。
今はそうではないのだろうか?

俺と智子が結ばれるまでには時間がかかった。

忙しい時間の合間を縫ってデートし、手をつないだ後は腕をおずおず組み合い、腰に手を回すとか肩を組むとかに至るまで、デート回数で4・5回かかった。

それでも俺は満足だった。
困ったのは、彼女に触れると息子が堅くなってしまうことだった。

おまけに我慢汁もあふれてきて、俺のズボンに染みを作った。
俺は、彼女と会う前にティッシュを幾重にも折り畳み、俺の亀頭にあてがった。
デートのあと、亀頭から外したティッシュはいつもヌルヌルになっていた。

智子は教員一家に育った。
父母は教師、も教師で、は高校生だった。

堅い家庭に育てられていることが分かり、俺はますます彼女を好きになった。
智子も俺を観察していたらしい。

あるデートの時、俺はたまたま俺を可愛がってくれていた伯母に偶然出会った。
伯母も交えて一緒に食事をしたのだが、伯母の雰囲気がとても良かったので安心したと智子も言っていた。

俺の伴侶になるのは智子かもしれないと、俺はいつしか考えるようになっていた。
智子も、同じ気持ちだったようだ。

会ってから2ヶ月だった。
俺には少々智子に疑問があった。
智子はすらりとスタイルは良いのだが、少々歩き方がひょこひょこしていた。

スッスッと歩くことができないようなのだ。
それでいて卓球やテニスは、俺より上手だった。

いつか聞いてみたいと思いつつ、失礼かと思って聞かなかった。
実は、これは股関節脱臼が原因だった。

股関節の形が変わってしまっていて、右足が左足より短かったのだ。

敬子は苦しみ始めていた。
友人は敬子を抱くだけ抱いて、彼女から離れ始めていた。

友人は独身寮住まいだったが、手紙や電話が敬子から大分来ていたらしい。
智子は俺に、友人の心を聞いて欲しいとお願いしてきた。

俺は気が進まなかった。
友人からは、既に敬子をどう思っているか、友人が彼女にどうしていたかを聞いていたからだ。
友人は言った。

「敬子? 良い子だよ。だけど、俺は本気になれないな」
「抱いたのか?」
「あれ、知らなかったのか?あの晩、口説いたら落ちたんだ」
「彼女、おまえが好きみたいだし、冷たくされているんじゃないかと思って傷ついているようだけどな」
「知らないよ・・・・」
「そうか・・・・・」

友情にひびが入るといけないので、俺はそれ以上追及しなかった。
敬子は随分抱かれたようだ。

そして友人は、敬子の両親にも会っていた。
そんな事するから、敬子は誤解するのだ。真剣に付き合っていてもらっていると。

おれは、そんなことを聞いていたから、智子には伝え難かった。
敬子曰く、友人はムードを作るのが上手なんだそうだ。確かにそうだろうと思う。
BGMの選曲など、心憎いばかりであった。

さて、上でも書いてくれた人がいるが、俺は智子とすぐに寝なくて本当に良かったと思う。

俺は智子を大切にしたし、智子も応えてくれた。
俺は娼婦の明美、Sさんと肉体だけの関係を持った。
明美は夢に出てこない。

Sさんの夢は見るけれど、後味の悪い夢だ。
Mちゃんと智子は、俺が真剣に付き合った二人だ。

どちらも破局に至ったが、夢に未だに出てくる。
嬉しい夢、哀しい夢どちらも見る。

目が覚めた時、未だに切ないまでの哀しみが俺を襲う。
覚めないで欲しかった。もっと彼女と一緒にいたかった。

ああ、二人とも今何をしているのか。
智子、子供を二人生んだと聞いた。股関節は大丈夫か・・・?

思い出すだけで涙が出てきそうになる。

Mちゃん、智子も俺を思い出してくれるだろうか?

二人とも俺が初めての男性だった。初体験の相手は決して忘れないと聞いたが、それは本当かい?

初めての口づけは、夜景の見える公園だった。

話しながら、お互いの指をからませながら、うっとりと智子は夜景を見つめていた。

いつしか彼女の頭は俺の肩の上にあり、俺は話しながら彼女の気配に心を集中した。
突然彼女が、「ね、私たち、まだ若いんだからさ・・・・」と俺に話しかけ、視線をこちらに向けた。

微笑んでいたが、目は笑っていなかった。
俺がすっと顔を近づけると、彼女は目をつぶった。

口づけの間、俺は幸福だった。
息子はびんびんに反応していたが、キス以上する気は俺にはなかった。

智子の思いやりというか、愛情が俺に伝わってきた。
俺は智子が好きだ、好きだと心の中で繰り返した。

仕事に疲れた俺に、こんな感情が隠れていたとは自分でも驚いた。

何だろう、限りなく優しくなってゆく自分。
人恋しくて、切なくて、胸が張り裂けそうな気持ち。

分かる人には分かるだろう気持ち。分からないとしたら、気の毒だと思う。

唇を離した後、智子は俺を見つめた。目には涙が溜まっているのを俺は見た。
智子は俺の胸に顔をうずめ、「エッ、エッ」と肩を震わせて泣き始めた。

簡単に手に入れられる肉体が、何の感動を生むだろう。
性欲を満たしたいがためのギラギラした焦りと、性欲を満たした後の気だるい満足感。

俺はそれを幾分かは経験していたが、何も俺に残してはくれなかった。
美しい思いでも、悲しいまでの切なさも。

俺達は多忙だった。

智子は銀行で融資関係の仕事をしており、それなりの仕事を任されていた。
高卒のOLとは違う扱いを受けており、やり甲斐はあったろうがプレッシャーも大きかったようだ。

智子は、アクセサリーを持っていた。
多面体に削ったクリスタルで、安物だったが、彼女は大事にしていた。

いやなことがあった時、彼女はそれをとり出して光に当て、きらきら輝くそれを、飽きずに眺めていた。

「これを見ていると、いやなことを忘れてしまうのよね」
俺は聞きながら頷いた。

俺は俺で多忙だった。海外との契約関係を扱うようになったのだ。
途方に暮れるような実務が続いた。

今度、海外に出たら俺はどうなるだろうか、少々心配になるくらいだった。
実際、俺は後に幾つもの修羅場をくぐることになる。

俺を助けてくれたのは、古武道だった。が、それは置いておく。
厳しい実務の中、俺達はわずかな時間をやりくりして会った。

会ったら心がほかほかしてきて、嬉しかった。
俺達のキスは早打ちだった。

一瞬の早業。それでも、心が弾んだ。性欲絡みではない、心の触れ合いを確認したという感じだった。
俺は彼女のアパートの前まで彼女を送ることがあった。

S駅の地下鉄から昇り、改札を出る。駅の様子ははっきりと思い出せる。
先日行ってみたら、だいぶ変わっていたので哀しかったが。

ある日、俺が彼女を送りアパートの前から帰ろうとしたら、彼女が俺の目をじっと見つめた。
「じゃあね・・」と俺は言ったが、彼女は返事をしなかった。

俺達は小指をつないでいたが、小指はほどけなかった。
逆に彼女は俺を引っ張ろうとしていた。かすかにその力を、ためらいながらもはっきりとした力を俺は感じた。

俺は彼女の目を見つめて、歩む方向を変えた。
アパートの入り口に向かって。

俺の心臓は早鐘のように鳴った。
落ち着けと、自分に言い聞かせながらも落ち着けなかった。

「修業が足りん」と心の中で、自分を叱った。
智子はゆっくりと部屋の鍵を開けた。

智子の部屋だった。女の子らしい部屋。
カーテンがきれいで、整っていた。大きなぬいぐるみがあったのがほほ笑ましかった。

「座って・・・」彼女に勧められ、俺はじゅうたんに座った。
俺は上着を脱いでいなかった。彼女はクスリと笑い、俺の上着を取ってハンガーにかけた。

彼女が俺の側にいる。周りの目はない、誰もいない。
彼女は俺にコーヒーを入れてから、俺にもたれ掛かり、俺の指をいじって遊んだ。

俺は彼女のするがままにさせておいた。二人とも無言だった。
ここで結ばれると思うだろうが、そうではない。

ここから1ヶ月以上、結ばれるまで時間がかかる。
我ながら不思議だ。が、本当だ。

少し時間が経った。俺は、「そろそろ帰らないといけないかもしれない」と彼女に伝えると、「駄・・・目・・・」と彼女は俺に甘えかかった。
彼女の唇が俺の唇を覆い、俺は彼女の細い肩を柔らかく抱いた。

本当の二人切りの時は、これが初めてだった。
俺は彼女の肩から、自分の腕をゆるめ、彼女の前ボタンを外し始めた。

彼女はじっとしていた。何かを感じているような、それでいてそれをこらえているような姿だった。
ぽつんぽつんとボタンが外れるにつれ、彼女のブラが、それに包まれた形の良い乳房が見えてきた。

俺の息子は爆発寸前だった。
俺はブラの中に手を入れた。彼女は相変わらず俺のなすがままだった。

乳房を触り、乳首をこりこりと刺激した。
「う・・ん・・・」彼女はため息ともつかないものを漏らした。

俺は彼女のシャツの上から、ホックをまさぐりブラを外した。
初めて触れる智子の肌。

痩せてはいるけれど、柔らかかった。
しびれるような感動が俺を襲った。が、直に彼女ははっと我に返ったようになって、「駄目!」と俺を制した。

俺はびっくりしたけど、彼女の目に真剣な光が宿り、涙があふれてくるのを見て、それから先は何もしなかった。

俺は、「帰るよ。」と上着を羽織ろうとした。彼女は俺に上着を取ってくれて、「ごめんなさい、ごめんなさいね」と俺に謝った。

俺が怒ったと思ったのだろうか、彼女は泣きそうだった。

「ね、許してちょうだい、お願いだから」
「良いんだよ、怒ってなんかいない」

彼女が処女だということは既に聞いていたので、よくあることだと俺は勘違いしていた。

本当の理由は、他のところにあった。
後でそれが分かった。俺は浅はかだった。

敬子は毎日泣いていた。
仕事の時は普段と変わらないが、智子と二人切りになると駄目なのだそうだ。

無理してお酒を飲んだり、男から軟派されて付いて行ってしまったりと、見ていられないという。
バレンタインのチョコを俺は貰えなかったが、智子が敬子に気兼ねしたのだった。

小学生じゃあるまいし、敬子と智子は一緒にチョコを買って、二人でそれを食べてしまったのだという・・・・
こんな子供っぽさが智子にはあった。

何とかならないかと智子から突っつかれ、俺は友人と飲みながら話した。
駄目だ。脈はない。友人は敬子に飽きていた。

抱くだけ抱いて捨てるというのは、人でなしだと俺は思う。が、残念なことに友人だと俺はそれを切り出せない。

仕方ない。俺は智子にもう諦めるように伝えて欲しいと言った。
身体を直に許すのは、お勧めできない。

軽く見られてしまうし、第一軽く見ている相手にしか、男は駄目元で迫らない。
敬子はなかなか立ち直れず、危ないところも通ったという。

自棄になって、色々な男に身体を許し、やらせの敬子と呼ばれていた時もあった。
実際、荒れた雰囲気が顔に出ていた。

それでいてきれいで、グラマーなのだから、男は放っておかない。
智子が側にいなければ、俺も敬子を落とせただろうと思うほどだった。

俺は友人を諦めるよう敬子を説得するために、智子と一緒に会ったのだった。
いやな役回りだったが、仕方なかった。

敬子はやはりきれいだったし、何人もの男から抱かれた女の色気がむんむんしていた。
俺は敬子を抱きたいと思ったが、その思いをかろうじて抑えた。

敬子を案ずる智子の手前、そんな事できなかったから。
二人と別れた後、俺は敬子に沸き上がった性欲を抑えがたかった。

俺は智子のアパートに電話を入れた。
今夜智子を抱かないと、俺はどうかなってしまいそうだった。

電話に智子は出た。

「さっきはごめんなさいね」
「いや、良いんだよ。敬子はどうしている?」

俺は敬子のことを聞きつつ、実は敬子が智子のアパートにいないことを確認したかった。

「さっき送って行ったの。落ち込んじゃってね、大変だったのよ」
「そうか・・・、ね、アパートに行って良いかな?そのことも話したいし・・・」

やや間を置いて、「うん、待ってる」
俺は急いで智子のアパートに行った。

ノックすると、静かにドアが開いて、智子が顔をのぞかせた。

「どうぞ・・・」
もう、何度か入ったことのある部屋だ。いつもきちんと整っている。

「何か飲む?」

俺はコーヒーをお願いした。ビールでも良かったのだが、自分が酔った勢いで野獣になってしまわないかが心配だったのだ。

野獣になれば智子を犯せるだろうが、俺は智子を失いたくなかった。
性欲が満たされ、はっと我に返る・・・などということにはなりたくなかった。

ギラギラした雰囲気を出してはいけない。
俺は落ち着こうと努めた。

急いではいけない、愛情より性欲が勝っていることを悟られてはいけない。
処女の直感というのは、結構鋭いものだ。

自分から身体を開かせないと・・・
俺は何とかムードを高めたいと努めた。

しかし、話は敬子に行ってしまう。当然だ。そのことを話したいと智子に伝え、俺は来たのだから。
敬子は、智子をうらやましがっていたという。

俺が優しい人で良かったね、と、泣いたという。
智子も話しながら、涙ぐんでいた。

俺は、黙って話を聞いていたが、「敬子に悪いというのなら、俺達も別れるかい?」と冗談半分で言った。
智子はキッとこちらを睨んだ。

「本気なの?」
俺は、返事をしなかった。

ただ、俺を睨みつける智子から目を離さず、彼女の真向かいに位置を変え、彼女の両肩に柔らかく手のひらをかけた。

古流柔術のやり方だ。相手は変な圧力を受けない。
柔らかく触れられているだけだから。

だが、相手は逃げようとしても逃げられない。
逃げようとする力の方向に崩しが入ってくる。

俺の目は真剣だったろうと思う。
俺達は睨み合っていた。

コーヒーは冷ていた。それだけ長い時間話を聞いていたのだ。
「分からないのか?」俺は智子に問いかけた。

智子は返事をせず、俺を睨みつけていた。

「好きなんだ。分からないのか?」

智子の目から、涙があふれてきた。

俺は智子を柔らかく抱きしめ、彼女の唇を探した。
ディープキス。舌を彼女の舌に絡め、彼女のよだれを俺はすすり込み、彼女も積極的に舌を絡めてきた。

そのまま俺は柔らかく彼女を押し倒した。
胸のボタンを外す。

彼女は胸を大きく上下させながら、荒い息の中「ね、止めて、お願い・・・」と俺に哀願した。
手は形だけ抵抗していたが、力が入っていなかった。

しかし、突然我に返ったように彼女は「駄目!!」と強く言い、抵抗力がいきなり増した。
本気で嫌がっている。前回と一緒だ。

俺は、彼女の目を見つめた。

「俺が信じられないのか・・・・」

我ながら驚いたのだが、俺の目から涙が流れ出した。

次々に涙が湧くように出てきて、俺の感情が爆発しかかっているのが自分でも分かった。

ここまで信用されていないのか、と、情けなかった。
俺のことを思わず、自分を守ることだけを考えているのかと、彼女に憤りも湧いてきていた。

が、彼女の目にも涙が溢れている。俺は力を抜き、彼女から離れた。
そして二人して、泣きながら見つめ合った。

そこは、真剣勝負の場だった。
ここの対応如何で、二人の人生は変わる。

今、人生の分岐点に俺達はいた。
智子は俺から視線をそらすと、涙を拭き、服の乱れをそっと直した。

そして俺の目を見つめ、無言で俺を制し、立ち上がって部屋の鍵が閉まっているのを確認した。
それから俺の正面にきちんと座った。

「ね、聞いてちょうだい。好きと言ってくれて有り難う。私も貴方が好き、大好き」

俺は嬉しかったが、その割の緊迫した雰囲気が不可思議だった。

「私も貴方に抱かれたい。何度も抱いて欲しいと思ったの。でも、その前に聞いて欲しいことがあるの。」

彼女の目から、見る見る涙が溢れ出した。

「言ったら、嫌われるかもしれないって、心配だったの。でも、言わないと私たちこれ以上進めないから・・・・」
「言ってご覧、嫌いになんか、ならないから」

彼女は振り絞るような声で言った。

「私、身体が悪いの・・・足が、悪いの・・・・」
「足?」
「股関節脱臼って、知ってる?」

股関節脱臼、聞いたことがある。
だが、詳しくは知らない。

俺はその旨智子に伝えた。
智子は視線を下に落とし、一つ大きなため息をついた。

それから意を決したように語り始めた。

股関節脱臼は股関節の異常で、智子は先天性だった。
幼児期から何度か手術を行ない、歩けるようになり、日常生活に不便がなく、スポーツもできる身体になった。

しかし、股関節の異常は残っている。
関節の形が悪いため、大きな重量に股関節が耐えられない。
すなわち、妊娠が難しい。

妊娠終期には、胎児胎盤などを含めて10キロにも及ぶのだ。
耐えられたとしても、股関節に新たなるダメージが蓄積される。

中年以降、股関節はすり減ってしまい、自分の体重にも耐えることができなくなる。
その時は、自分の関節を切除し人工関節を手術で入れることになる。

智子の説明では、人工関節は一度しか入れられず、人工関節が使えなくなった後は、歩けなくなり、車イス生活になる・・・

智子は視線を落とし、義務的なほど冷たい声でそれらを説明してくれた。
感情の表出は見られない。しかし、手や肩は小刻みに震え、唇の端もフルフルとゆがんで震えていた。

俺は、どうして良いのやら分からなかった。
俺はそろそろ智子を抱きたいと思っただけだった。

だのに突然想像もしなかった事実を突きつけられ、俺は途方に暮れざるを得なかった。
しかし、智子が受け止めねばならない人生は重く、智子と共に生きるのか、それとも別の道を歩み始めるのか、

それは俺の返事にかかっていた。
THAという言葉も知らず、智子の言った通りを今まで信じておりました。

智子は昭和36,7年生まれです。
当時の医学レベルでは、ということなのかもしれませんが、私の記憶違いもあるのかもしれません。

智子が言ったこと、それをあえて私は封印していましたし、改めて智子に詳しく聞くこともありませんでした。
智子が私に語ってくれたことが、私にとって大きな衝撃だったので症状を深刻に捉えてしまったのかもしれません。

智子の右足の内股には、大きな手術の跡がありました。
私の印象では、15センチくらいの傷で、何針も縫った跡がありました。

智子はちらりと俺を見、直に視線を外した。

俺は落ち着きたいと思ったので、「コーヒーのお代わりをくれない?」
と智子に言った。智子は頷いて、ゆっくりと立ち上がり、お湯を沸かし始めた。

智子はコーヒーを入れるのが上手だった。豆はいつも手で挽いていた。
ゴリゴリ音を立てながら、豆を挽く。

俺達は無言だった。
外はいつの間にか雨が降り始めており、雨音だけがやけにはっきり聞こえてきた。

俺は決断を迫られていた。
結論の先延ばしはできない。場の雰囲気がそれを許さない。

俺が智子と一緒になった場合に、確実にやって来る未来は彼女の車イス生活だった。
俺は未だ、智子を抱いていない。

今ここで彼女と別れても、さほど傷つけないで済むのではないかと思ったりもした。
敬子を捨てた友人よりも、よほどマシではないか?

だが、人生の大切なひととき、共に過ごした智子との大切なひとときを全て無にするのか?
一瞬の運命で出会った二人、女神湖で、お互い5分いる時間がずれていたら出会わなかっただろう二人。

可愛い智子、二人でやっと育んできた大切な関係を、ここで終わらせてしまって良いのだろうか?
智子がコーヒーを俺に入れてくれた。

カップと受け皿がカタカタ震えていた。智子は俺の目を見ない。
ただ俺の言葉、行動を待っている。

俺はコーヒーを飲み切ってしまった。
味はよく分からない。ただ夜だから、薄口のコーヒーだったのを覚えている。

カップを置いて、俺は耳を澄ませた。
雨足が強くなったようだ。

今日は帰れそうにないし、帰りたくもない。
俺は智子を見つめた。

可愛い。銀行でも、結構もてると聞いている。
真剣なまなざしを下に落として、堅くなっている。

俺は腹を決めた。
彼女を支え、幸せにしてあげるのが俺のつとめだと思った。

今から思うと、実に傲慢な考え方だが・・・
その時は、本気でそう思ったのだ。

そう、傲慢だった。

今は、はっきりと分かる。智子には可哀相な事をしてしまった。
何故、一緒に生きたいと、一緒に苦労しようと思えなかったのか。

何故、支えてあげよう、などと思ったのか。支え合おうと言えなかったのか。
俺自身、どれだけ智子に支えられたか、今になって分かる。

俺は、後悔している。智子に悪いことをした。
「智子」俺は声をかけた。

彼女は振り向いて、俺を見つめる。

「愛しているよ」俺は微笑んで言った。

初めて彼女に言った「愛」という言葉。

「本当?本当なの?」
「ああ」
「うそじゃないよね、信じていいのね」

俺は頷いた。

智子は立ち上がって、コーヒーをもう一杯入れようとした。
そして、そのままその場で肩を震わせながら泣き始めた。
俺は立ち上がり、彼女の肩に優しく手をかけ、「愛しているよ・・・」と伝えた。

彼女は涙目のまま俺を見つめ、身体をひねって俺の唇に自分の唇を押し当てた。
俺達はしばらくそのまま抱き合っていた。

雨の音、お湯が沸く音、智子の心臓の鼓動。
それらが一体となって、俺の哀しいまでの幸福感を高めた。
智子は俺から離れた。

涙目のまま、クスリと笑い、

「シャワーを浴びなくっちゃね」

俺はドキンとした。

智子は、シャワーを浴びに行った。
智子が出てきて、俺に「どうぞ」とシャワーを勧めた。

智子は薄手のトレーナーを着ていたが、トレーナーには智子の乳首が浮き出ていた。
ノーブラだった。

俺がシャワーを浴び終わって、出てみると布団が二組敷いてあった。布団はぴったりとくっついている。

「泊まって行くでしょ?」
「うん」

俺は童貞のようにどぎまぎした。
歯ブラシは智子が自分のそれを使わせてくれた。

俺はパンツ一つになって布団に潜り込む。
とても良い香りがした。
智子も布団に入り、電気を消した。

「おやすみなさい」
「おやすみ」

だが俺は寝つけなくて、目を開けて智子の方を見てみた。

水銀灯の灯が、カーテン越しに部屋に入ってきて智子の顔を照らし、遠くに車の流れる音が、かすかな波の音のように聞こえてきていた。

智子は目を開けて、俺を見つめていた。

「眠れないの?」
「うん」
「さっきは、どうも有り難う」
「いいんだよ」
「嬉しかった。嫌われたらどうしようって、いつも思っていたから・・・」
「そうか、でも、寝ないとね・・・・」

智子は素直に目をつぶったが、右手を俺の方に延ばしてきて俺の手を探し、俺の手に触れると、しっかり握ったまま眠りに落ちて行った。

俺達はここでも結ばれなかった。

智子が愛おしくて、手を出す気になれなかったのだ。
長い、長い一日が終わった。

翌朝、俺は智子に抱かれて目が覚めた。
智子が俺の布団に潜り込んできて、俺に口づけをしたのだった。

俺の息子は、痛いほどの朝立ちをしており、俺は夢うつつのまま智子のパジャマをたくしあげた。
小振りだが、形の良い乳房。

智子ははだけた胸を隠すでもなく、俺を見つめていた。
智子の作った朝食を一緒に食べた。

そして、一緒にアパートを出る。
アパートを出る時、智子は急に俺の目をじっと見つめた。

俺は、彼女を抱き、口づけした。
ほのかに口紅の味がした。

そして智子は、俺の手に何かを握らせる。
それを見て俺は痺れるような感動を覚え、智子を抱きしめながら

「有り難う。いつまでも一緒にいような」と思わず口走ってしまった。
それは部屋のスペアーキーだった。

スペアーキーでは、俺にはSさんとの辛い経験があるから、余計嬉しかった。

雨上がりのしっとりと濡れたアスファルトを、朝日が照らしている。
二人で駅まで一緒に歩いた。
これは別れる直前まで、続いた二人の日課となった。

会社で、無意識のうちに俺は生き生きと仕事をしていたらしい。

「どうした、何か良いことあったのか?」と課長が聞いてきた。
「いえ、別に何もありません」

だが、退社時間になると何となくそわそわしてくる自分が我ながらおかしい。
新婚の同僚、先輩がこんな具合になっているのを何度も見ているが、本当にそうなのだな、と一人納得した。

残業も早々に切り上げての退社後、俺は智子のアパートに直行した。
智子もさっき帰ってきたばかりだった。

「お帰りなさい」と智子は俺を迎えてくれた。
俺を信頼しきっている雰囲気。嬉しそうに、愛されている自信に満ちて。

そして、キス。
俺はゆったりと、たった一つのソファーに腰を下ろし、智子を見つめた。

「お風呂にする?夕食は?」

智子はくるくると動き回った。
疲れているだろうからと、手伝おうとした俺の手を彼女は制した。

智子は料理の手順が上手かった。
夕食を作りながら、明日の朝食の下ごしらえもしてしまう。

空いている時間、無駄な動きがないのは、Sさんに似ていた。
どうも、俺はそういう雰囲気を持っている子を好きになるらしい。
実は、今の家内もそうなのだ。

部屋の片隅に大きな袋があった。
見るとそこには、何と買ったばかりの俺の下着やらワイシャツなどが入っている。

「サイズは合っていると思うんだけど・・・違ったらごめんなさいね」

智子との生活がどんどん既成事実化してゆくのを、俺はあれよあれよと見つめていた。
悪い気持ちはしなかった。てきぱきと物事を進める智子に、誇らしい信頼感を俺は覚えた。

その晩も泊まったが、俺達は結ばれなかった。

俺達は抱き合い、口づけし、智子は乳房を吸ったり舐めたりする俺を優しい目で見つめ、俺の髪をなで続けた。
俺は独身寮を引き払った。

ほとんどの荷物は実家に送ったが、仕事関係の資料の扱いに困った。
これがないと仕事関係の勉強ができない。

迷った末、智子のアパートに送った。
俺は、智子のアパートを生活の基盤にすることに決めたのだ。

これは、智子の勧めでもあった。
俺は智子との関係を、友人達の間にも伝え始めた。

一度、課の皆にさりげなく智子を会わせることもした。

「主任、あの人誰ですか?」

後輩が聞いてきたが、俺は笑って答えなかった。

後で女子社員の間で、智子が可愛いと評判になったと聞いた。
俺は内心気分が良かった。

ここでまた俺の弟が出てくる。
悪気がないし良い奴なのだが、善かれと思いつつ引っかき回してくれるのも彼だ。

父母からも俺のことを聞いてくれるように頼まれていたようで、その意味ではスパイみたいな存在でもあった。

俺は先に智子と半同棲と書いたと思う。
実は俺は三日に一日は実家に帰っていたのだ。

だが、父母は心配したが俺は大人なので、口を挟んでこなかった。
そこで弟の出番となったわけだ。

男同士だから、俺と弟は結構話せる。
この時、弟は獣医学部の修士2年生だった。

ちなみに弟は、卒業して動物病院の医師になり、後に企業からハンティングされ、今は上場企業の部長をしている。
中途入社の出世頭だから、弟ながら大したものだと思う。

弟は智子と会わせて欲しいと言った。
智子に話したところ、智子も会いたいということで、会うことになったのだが、これが弟の運命の分かれ道になる。

智子の友達で、彼女が心配している子がいた。
高校時代の同級生で、高卒後商社に勤務している。

進学校だったので、ドロップアウトして就職したといった感じらしいが、頭は良い子だという。
写真を見せてもらったが、きれいな子だ。

実は、彼女の彼氏がワルだった。

彼女は彼に引きずられて東京に出てきたようなのだが、今の彼はどうもその筋の人か、それに近い人らしい。
その子を連れてきて良いかと聞くので、オーケーした。

四人が会ったのは、新宿の高層ビルの上にあるレストランだった。
俺が好きなレストランで、夜景が楽しめる。

智子の友達は、紀子といった。紀子はボーイッシュな髪形で、少々面長。目鼻立ちが整っており、身体はグラマスで迫力があった。
紀子はとにかく明るい子だった。

弟も明るい方なので、直に意気投合して、色々話し込んでいる。
俺と智子は、その姿をほほ笑ましく見ていた。

弟は智子も気に入ってくれたようで、
「二人とも良い女だな、兄貴には感心するぜ」とご機嫌だった。

俺の知らぬ間に、弟は紀子と連絡を取り合い、デートをする仲になった。
が、ここでワルゴロの彼氏が出てきた。

俺の女に手を出すな、ということだ。
ここからのやり取りは、書こうと思えば相当書けるが省略する。

幸いに俺の司法試験受験時代からの仲間で、親身に相談に乗ってくれた弁護士がいた。
彼は、ほとんど無料で弟の相談に乗ってくれた。

彼は現場主義の弁護士だったので、何度も足を運んでくれた。
調べて分かったことに、紀子は彼から暴力を受けていた。

今で言うDVだ。その証拠を彼は掴んだ上で、彼氏に直談判した。

弁護士が出てきて、暴力の証拠を握られたらもうどうしようもない。
彼氏は、警察ざたにするよりも、紀子を諦めた。

実は彼氏は予想以上にワルだったようで、後日覚せい剤所持で警察に逮捕されることになる。
紀子は危ないところを助かったわけだ。

そのプロセスで、俺達は色々な人を見た。
おトルコさんと呼ばれている子がいた。

ヤクザにだまされてトルコに売られてしまった子で、かわいい子なのだが、少々頭が弱かった。
彼女は自分が被害者だと理解できないようで、驚かされた。

そして、平気で誰とでも寝ることができる子だった。
優しくされると、すぐに身体を開く感じ。

そういう子がいることは、本で読んで知っていたが、実際に見るのは初めてだった。

彼女も紀子の彼氏とのごたごたのプロセスで助けられた子だったが、あの分では夜の世界しか生きる術はなさそうな子だった。
今はどうしているだろうか。

さて、その筋の人とは関わりを持たないのが一番だが、どうしても持つ必要がある場合、弁護士と警察の助けが絶対必要だ。忘れないようにしておいた方が良い。

彼らはプロだ。金にならないことはしないし、下手に関わるということは、金をむしり取られることだと思っていた方が良い。
素人判断はしないことだと思う。

今回で、裏の世界をかすかながら垣間見ることができた。
もう二度と近づくまいと、心に決めざるを得ない経験だった。

武術ができるできないなど、関係ない。とにかく近づかないことだ。
弟は晴れて紀子と付き合うことができるようになった。

が、紀子は言ってみればヤクザの情婦だった子だ。
父母を始め、周りが納得しない。

弟は怒り、紀子との関係を守ろうとした。
もう、最後には意地になっており、大学を中退して働くとまで言い出した。

後一年がんばって国家試験に合格すれば、獣医師として働くことができるにも関わらず。
俺は彼の説得に当たった、が、聞く耳を持たない。

恐らくここで、弟の恋愛観は大きく変化したのだろう。
また、DVが分かった時点で、紀子が彼氏から犯され続けていたことも分かった。

初体験からしてレイプだったという。
弟には厳しい現実だった。

滅多に弱気を見せない弟だが、これには参ったらしく、俺に苦しそうな表情で話してくれた。
誰かに聞いて欲しかったのだという。

今の俺でも、紀子との関係は切った方が良いと思う。
紀子には気の毒だが、おかしな彼氏について行ってしまう軽薄さが彼女にはあった。

レイプされたことにもさしてダメージを受けていないのではないかと思われる位の、変な明るさがあり、俺は心配だった。
彼女は今回の事で、知恵を得たのかというと、そうでもないようだった。

頭の良し悪しとは違う、聡明さが賢さが彼女には無かった。

恐らく、人生楽しければ良いという子で、深みや哀しみ、静かな喜びとは無縁の子ではないかと今では思う。

だが、熱くなった弟の耳には俺の説得など入らない。

「兄貴まで紀子のことをそんなふうに言うのか?」
「兄貴は、辛い思いをしている女を愛したことがあるのか?」

ここまで言われて、俺は智子の股関節脱臼のことを話した。
弟は黙ってしまった、が、弟の決意を翻させることはできなかった。
彼は夏休み、行方不明になった。

母はおろおろしたが、父は流石だった。

「男が自分で考えて、行動したのだから、とやかく言ってはならない。探すことも相成らん」

もし、俺が失踪したとしたら、やはり探して欲しくはないだろう。
この辺りは、男にしか分からない機微だろう。

その代わり、千葉消印のハガキが時々来るようになっていた。

後で分かったのだが、弟は房総の魚屋で住み込みのバイトをしていた。
自活できる力が自分にあることを確認したかったのだと言う。

このまま房総に住み着こうと思ったとも言っていた。
彼なりに深く悩んでいたのだろう。
結局彼は大学に戻り、結構優秀な成績で卒業した。

さて、以上は後の話だ。

弟が紀子と初めて寝たのは、紀子と初めて出会った次の週のことだった。
弟は手が早かった。

弟は紀子を送った後終電車が無くなり、紀子のアパートにこっそり泊めてもらったと言う。
その時の紀子はどこかほんわかして、トンチンカンだったそうだ。

突然、胸が苦しいと言い始め、何が苦しいのか弟が聞くと、「ブラジャーがきついの・・・・」とひと言答え、自分でブラを外したと言う。

「その後、どうなった?」と俺が聞くと、弟は「最高!!」と満面の笑みを浮かべた。

この時点では、弟は紀子と元彼のDVの事を知らなかった。
紀子はいい身体をしており、非常に具合も良かったという。

彼女の反応も、弟の今まで経験した女と違っていた。
それはそうだろう、チンピラに仕込まれた女だから、弟なんて一発だ。

ここから弟は紀子に夢中になり、元彼が出てきた時には、紀子から離れられなくなっていた。
それが後のゴタゴタにつながって行く。

翌日、アパートで俺がそのことを智子に伝えると、彼女は「ふーん」と不満そうな表情を浮かべた。
感情を隠すことのできない子だった。

俺は手の早い弟のことを不満に思っているのかな、と思ったが、実際はそうではなかった。
何となくつんつんした智子の姿に、俺はその理由を聞いてみた。

「知らない・・・」と智子はとり合わない。
俺の話を聞いてからそうなったので、俺は

「弟にはよく言っておくよ。智子の友達だもんな・・・」

敬子のことも俺の頭をよぎった。手の早い奴に誠実な男は少ない。

「悪かったよ、だから、怒るなよな」

何故俺が謝らなくてはならないのかと思いつつ、それでも機嫌の直らない智子に俺は少々腹を立てた。

「いい加減にしろよ。帰ろうかな、全く」
「帰るって、どういうこと? 貴方の家はここでしょう?」

この辺りに、俺と智子の覚悟の違いが出ていると今は思う。

「訳の分からないことばかり言っていると、怒るぞ」
「怒ってご覧なさいよ」

近所をはばかっての小声だったが、喧嘩になりつつあった。

「余り聞き分けがないと、犯すぞ」

と思わず口から出た俺の言葉。

すると、智子は

「犯してごらんなさいよ!」
「・・・・・・」
「いいわよ、犯させてあげるから、犯してみなさいよ!」

俺はぐっと息をのみ、ゆっくりと智子の手を取った。

智子は腕にうんと力を入れたが、俺はそのまま智子をゆっくりと押し倒した。
力では俺にかなわない。また、俺は柔術で彼女の動きを取れなくした。

俺は智子の服を一枚ずつ脱がせて行った。
智子は無言のまま脱がされて行く。

俺が服の扱いに困ると、身体を少し持ち上げて脱がせやすくしてくれたり、ホックを自分で外したりしたが、あくまで智子は無言だった。
ついにブラ、ストッキングとパンティだけになった。
細い身体だった。

俺は智子を見つめたが、彼女の視線はあらぬ方を見ていた。
ストッキングを下ろし、ブラを外し、パンティを脱がせる。
恥毛は薄かった。

智子の唇はわなわな震えていた。
夜の11時半だった。

俺も裸になった。
そして、智子の横に身体を横たえた。

キスをする、智子は人形のようだった。
耳元から、首筋、そして乳房へとキスをしながらの愛撫を続け、右手は智子の太ももをなで回した。

智子の秘所は、濡れてこない。

智子の身体はこわ張っており、これから起こるであろう事に恐れを抱きつつも必死でこらえている感じだった。
愛撫を二十分くらい行なった。丁寧に、優しく。

肌と肌の触れ合いは、どうしてこんなに心地よいのだろう。
ましてや、待ちに待った智子との触れ合いだ。

状況は、俺の望んだ形ではなかったが、それでも火照った智子の肌に触れると、その柔らかさに、言いようの無い満足を俺は覚えた。
言葉も一緒にかけながら。

「愛しているよ・・・愛している」
「私も・・・・」

智子が応え、腕を俺の首に回した。

身体のこわ張りが取れ、あそこも微妙に濡れ始めた時、俺は智子の身体の上に自分の身体を移した。
ところが、智子の足が開かない。

左足は大きく柔らかく開くのに、右足はギブスでもはめたかのように開かない。
俺は驚いた。

右足の内ももには、大きな傷跡があった。
この堅さが股関節脱臼によるものと分かったので、俺は無理せず、彼女の両足を高く持ち上げ、両膝を俺の胸に抱え込んだ。

亀頭を彼女自身に押し当てる。
未だ、濡れが足りないか。俺は唾液で亀頭を湿した。

俺は、同じことを繰り返し、彼女の腰が下に着いた時のし掛かるように俺自身を彼女の中に埋め込んだ。

この体勢だと、逃げることはできない。
俺はしばし、智子を味わった。

温かい、それでいて、狭い。

俺には結ばれた感動というより、やっとここまでたどり着いたかという充実感があったような気がする。

智子は視線を上に上げ、左右にずらし、身体は逃げ出そうと努めているかのようだった。
俺はしっかりと智子を押さえつけて、ゆっくりと動き始めた。

久しぶりのセックスだ。

が、智子が可哀相で、俺は直に動きを止めた「つらいのかい?」俺が聞く。
智子は俺の目を見て、涙を浮かべたが軽く首を左右に振った。

辛いけど、我慢しようとしているのだろう。

俺は、「今日は、これくらいにしておこうね」
俺自身を智子から引き抜く。息子はいきり立っていたが、俺はティッシュで息子をぬぐった。

ティッシュが薄赤く染まった。
智子は裸のまま上体を起こし、シクシク泣き始めた。

「哀しいの?」と聞くと、違うという。
何と聞いても違うと言う。

良いよ、泣け、泣け。こんなことがあってもいいさ。
こういう涙を通して、処女は女になって行くのだろうから。

智子はシャワーを浴びてから、バスタオルを巻いたまま俺の隣に座り、「とうとう貴方のものになってしまったね・・・・」と微笑んだ。
俺達は深い深いキスをした。

話は以前に戻る。

弟と会って智子を紹介した時、俺は智子の足のことを話さなかった。
友人にも同じだ。

智子は、そのつど淋しい思いをしたらしい。
智子は女の子だから、男子を好きになることもある。

しかし、足のことが負い目になって、どうしても告白できなかったと言う。

頭は悪くないし、可愛らしいので彼女に好きだと言ってくる男子もいたが、
そういう相手には、智子自らガードを固めてしまったらしい。

彼女は国立二期校の法律関係の学部に進学した。
ゼミの先輩で、いい人がいた。

男らしく、聡明で優しかった。顔はいかにも田舎者で、受け唇、垂れ目。
カッコは悪かったが、なおさら智子は彼ならば足のことを知っても自分を愛してくれるのではないかと思った。

幸いに彼も智子を意識してくれて、いつしかデートを重ねるようになった。
ファーストキスも彼が相手だったと言う。

愛を告白され、智子は彼ならば、と信じ、足のことを話した。
ところが、彼はよそよそしくなり、最後には智子から離れて行った。

智子は泣き続けた。
もう、幸せを自分は掴むことができないんだと思ったという。

だから、一人で生きて行くことができるように、勉強をがんばったのだそうだ。
卒業成績は上位だったため、女子は就職が難しかったにも関わらず銀行に入行できた。

ただ、彼女は無理に無理を重ねていた。
会社で忙しい部署に配属され、大卒ゆえに仕事量も多く質も高かった。

慣れない都会生活、殊に人間関係が田舎と違っていて困惑したらしい。
可愛がってくれる先輩もいたが、彼女は足のコンプレックスから一歩引いてしまっていた。

銀行内部では余り知られたくなかったと言う。
あれやこれやで、伸びきったゴムが縮むことができなくなるように、彼女は少しの刺激でぷつんと切れそうな状態にあったようだ。

そんな智子を心配した敬子が、一緒に銀行の保養所に行こうと誘ってくれた。

そこで、俺達に出会ったわけだ。

智子は、俺の友人や家族に足の事を知られたくないような、知っていて欲しいような複雑な気持ちだったらしい。
そうだろうと思う。

俺は、じっくり時間をかければ良いと思っていたのだが、智子とすれば不安がよぎるのだろう。

当時の俺には智子の焦る気持ちが、良く分からなかった。
ところが、今回は智子に会いたくて仕方がない。

性欲もあったと思う。そう、抱きたくて仕方がないのだが、それだけではなかった。
俺は切ないほど智子を愛し始めていたのだった。

稽古を放っておいて、智子の元に駆けつける。
智子は毎日帰りが遅い。

しかし、この日は違っていた。部屋に明かりが見える。
智子がいる。

俺は、走り出したいような気持ちを抑え、ゆっくりと智子の部屋へ行った。
呼び鈴を鳴らし、智子の声に無言で応える。

扉をうっすらと開いた智子は、立っているのが俺だと分かると
はっとしたような顔をして、扉を開いた。

俺は智子と視線が合ったが、智子はスッと視線をそらした。
頬が上気している。

「お帰りなさい、早かったのね」
「ただいま・・・、君こそ早かったじゃないか」
「仕事がなかったの・・・・・・嘘・・・・早く、貴方に会いたかったから・・・・・」
「・・・・同じだよ・・・・」

今から思うと、歯の浮くような台詞だが、当時は大真面目で本気だった。

俺は智子を優しく抱きしめ、ゆっくりと押し倒す。

「駄目、帰ったばかりで未だシャワーを浴びてないの」
「シャワーなんか、どうだっていい」

智子はもだえながら、「駄目、駄目」と言い続けたが、俺は許さず、彼女の服を次々脱がせて行った。
あっという間に智子を裸にして、俺も裸になった。

「一緒にシャワーを浴びようか」

智子は、恥ずかしそうに頷いた。
俺の息子は爆発寸前、天を向いていた。

智子は目を丸くして、息子をチラチラ見たり視線をそらせたりしていた。
やがて意を決したように息子に視線を止め、

「すごいのね、男の人って」

シャワーを浴びている時、

「ね、少し、触ってみてもいい?」
「ああ」

おずおずと手を伸ばし、俺の息子をおっかなびっくりなでさする智子。
「ここが感じるというけど、本当なの?」と亀頭の首の部分をなでる。

どこでそんなことを覚えたのだろうか?
智子のぎごちない手つきが、俺の息子を前後にこすり始めた。

「あっ」

我慢などできなかった。俺はあっという間に行ってしまった。

体液が遠くまで飛んだ。俺の尿道口からどくどくと溢れ出る体液。
智子はびっくりして手を引っ込めた。

が、シャワールームの壁に付いた俺の体液を、バスの床に垂れた体液を智子はしげしげと眺めていた。

俺は俺で、智子の身体をじっくり観察し、いじり、なで回した。
小振りだが形の良い乳房、つんと突き立った乳首。ピンクの乳頭。

細い体つきだが、骨盤は大きかった。
脱臼が無ければ、安産タイプだろうか。

柔らかい身体だ。
二人で身体を拭き合って、お互いバスタオル一枚の裸のまま布団を敷いた。

変な気分だった。
智子のあそこが、見えそうで見えない。

敷き終わったら、智子は電気を消した。
智子の部屋には、水銀灯の灯が入ってくる。

結構きつい光だ。
だが、それゆえにカーテン越しに部屋を薄青く照らした。

智子の姿が、青みがかったシルエットになって俺には思い出される。
実は、今の俺の家の庭にも、水銀灯がある。
防犯に良いからとの口実で取り付けた物だ。

が、本当は智子の部屋を思い出すため。
嫁にはこんな話聞かせられない・・・・・

智子は青白い光に照らされ、別世界の存在のようだ。
お互いに見つめ合った、切ないまでに真剣な目の光。

さっき発射していたにも関わらず、俺の息子は再生していた。
愛おしい、愛おしかった。智子が。

口づけをしながら、智子の両手が俺の髪を優しくなでる。
シャワーを浴びた後の身体の暖かさ、石鹸の香り、智子を押し倒し、俺は智子の乳首を吸った。

「う、う・・・」

色気だけではない、くすぐったいのもありそうだ。
俺の愛撫している手を軽くどかそうとしたのは最初だけ。

智子はうっすらと汗ばんでいた。
俺は、入念に愛撫を重ねた。智子自身が潤ってきたのを確認すると、俺はおもむろに智子にまたがった。

智子の足が・・・開かない。
抱き合いながら交わりたかったが、どうして良いか分からない。

内心、哀しみが俺を襲う。
智子、可哀相に。智子、愛しているよ。と幾多の感情が俺のうちに渦巻いた。

それと同時に智子と生きて行くことの困難を開かない足が教えてくれているようにも思えた。
仕方ないので、俺は智子を四つん這いにさせた。

バックから、智子を狙う。
智子は、初めての体位のためか、背中を丸く曲げてしまう。

バックの場合、腰を反ってもらいたいものだ。
ヒップが目の前に来るように。

だが、智子は背を丸く曲げてしまうので、上手く息子が入らない。
俺は少々焦った。

けれど、何とか先端が智子自身を捉えた。
そのまま、押し込む。

「痛い・・・」
「痛いのか?」
「少し・・・・でも大丈夫・・・・」

温かい智子自身が、俺自身を包み込んでいた。
俺はおもむろに動き始めた。しかし、二回目なので射精になかなか至らない。

智子は、何かを我慢しているような雰囲気だった。
辛いのかな、痛いのかなと思う。

正常位ならば、ある程度相手の気持ちは掴めるのだけれども、バックだと手ごたえが無い。
結局、智子が可哀相になって、今日も射精無しであった。

それでも、俺は満足していた。
セックスを許してくれると言うのは、心と心が結びついていることの象徴であるかのように、俺には感じられるから。

たとえ手によるものであっても、射精した後の満足感が俺にはあった。
俺の横にぐったりとなっている智子を、俺は見つめ、彼女の身体にタオルケットをかけた。

目をつぶっていた彼女は、目を開け、「ありがとう」と微笑んだ。
俺は彼女に口づけして、裸のまま横になった。

俺は幸せだった。智子さえいれば、何もいらないと思った。
寝息を立て始めている智子を、俺は愛おしく見つめた。

俺は小さな折畳み机を買った。
五千円ほどの、小さな机。

智子は自分の机を使って良いと言ったが、俺は自分だけの机が欲しかった。
俺も、智子も勉強が結構大変だった。

抱き合って、交わった後お互いに机に座って本を読み始めることもあった。
テレビは見なかった。ビデオもなかった。

時々カセットテープで、好きな音楽を流しながら読書した。
オフコースや山下達郎をよく聞いていたのを覚えている。

また、智子と会った時の思い出であるボズ・スキャッグスを好んで聞いた。
智子はラジオを聴きながらの勉強を好んだ。

ただ、俺がそれを嫌いだったので、主に彼女はイヤホンで聴いていた。
そう、俺の生活は、仕事、勉強、稽古で、これだけを淡々と繰り返す毎日だった。

智子は稽古のかわりに家事が入る。
一見詰まらなく見えるかもしれないが、俺達は満足だった。

退屈することなんて、無かった。
読書に疲れた目を上げると、智子もこちらを見つめていることがあった。

ニッコリ笑ってキスをして、コーヒーを一緒に入れたりした。
Sさんとは大違いだった。彼女は遊びに俺を連れ出したがった。

Sさんはたまに俺のアパートに来るだけだったが、もし一緒に生活していたとしたら一ヶ月持たなかっただろう。

俺達にとって一緒に遊びに行くというのは、公園を一緒に散歩したり、ショッピングでお店を冷やかしたりする事くらいだった。
つつましいショッピングだった。

一番一緒に行ったのが、図書館だった。図書館には、二人とも幾らでもいることができた。
お金は貯まった。二人とも、衣食は比較的質素だったし、生活費以外ほとんど使わなかったから。

俺達は将来に向けての貯金もし始めていた。
お金の使い方も、智子は俺と同じ倹約家であり、俺は嬉しかった。

融資部門にいたおかげで、借金が返せず大変な目に会う修羅場を見聞きしていたので、お金の使い方が堅実だったようだ。

俺達は、通帳は分けておいたが、必要な時必要な分だけお互いに出し合った。
二人の間で、金銭のトラブルは全く無かった。

俺は、安心して通帳を智子に任せていた。
拍子抜けするほど、安定した生活が始まった。

俺は今、智子を真似ている。
車にも、どの部屋にも数冊の本が置いてある。

空いている時間、俺は本を手に取る。
車中渋滞中も、読書をする。

本を読み終わると、ブックオフに行き一冊百円の本を買い込んで、あちこちに置いておくわけだ。
チリも積もれば山になる。

このやり方で、俺は随分助けられた。
俺との生活で、智子は精神的に安定して行った。

物腰に、女性ながら落ち着いた自信が加わってきていた。
彼女くらい勉強していたら、やがて嫌でも目立ってくるはずだと俺は思っていた。

実際そうなり、やがて智子を愛する男性が現れることになる。
俺も智子の銀行内テキストを読ませてもらうことなどを通して、銀行業務にも知識を持ち始めていた。

勉強に実務にテキストには随分お世話になった。
セックスについて俺達は、堰を切ったようにお互いを求め始めた。

俺も、我慢に我慢を重ねていたので、泊まるとセックス、という感じだった。
智子は、慣れるとセックスが嫌いな方ではなかった。

俺を見つめて、近づいてくる。口づけから、愛撫。
部屋での智子は、上が1枚、ブラ無し、パンティにある時はジャージといったいでたちで、脱がすには実に都合が良かった。

俺は会社や道場から帰った後、智子の膝枕で横になり、トレーナーをめくって彼女の乳房を触ったり舐めたりするのが好きだった。

智子は「くすぐったい・・・」と言いつつも俺のやりたいようにさせてくれた。
新婚家庭って、こんな感じなのだろうか、と思った。

夜寝る時、朝起きた時、俺達は交わっていた。
セックスするのが当たり前、先日までの禁欲生活が嘘のようだった。

智子は、体つきがふっくらとして、妙に色っぽくなってきた。
智子が欲しがる時は、呼吸で分かった。

自分で意識しているかどうかは分からなかったが、ウックン、ウックンという感じの呼吸になる。
横で寝ていて、この呼吸になったら俺は彼女に近づいて行く。

拒否された事はなかった。
智子はどんどんセックスに慣れて行った。

何度も寝ていると、反応が少しずつ変わって行くのが分かる。
ただ、足が開かなかったので、主にバックからの交わりだった。

俺としては正常位が一番好きなのだが、これは智子が辛そうだった。

主に行なっていたのがうつぶせになった智子の後ろからインサートし、智子にヒジをつかせて彼女の胸を弄りながら交わる、というものだった。

智子は、感じてくると首を曲げて、俺の唇を求める。

俺が口づけするまで、切なげに大きく首を曲げて。
俺が口づけをすると、舌を絡めてきて、俺の口を放そうとはしなかった。

そして俺の腕を握りしめながら、行く時には俺を抱きしめたがった。が、バックからなので、それができない。

後には智子が行きそうになると、俺が体位を変えて疑似正常位に持って行くようにした。
智子は行く時は俺を抱きしめキスをして、これ以上ぴったりくっつきようがないという体勢になったものだった。

智子のアパートの近くに、小さな公園があった。

道場の日は、道場に直行。
そうでない日は、アパートに帰ると俺は直に着替えて、公園に稽古に行った。木刀、十手、小太刀、柔術。

与えられた型を繰り返し工夫稽古し、汗を流した後、アパートで居合を抜く。
最後に身体作りに四股踏みと腕立て伏せを各々限界まで、プラス腹筋、柔軟を行なう。

その後シャワーを浴び、勉強、その後智子と話し、セックスまたは就寝。
帰宅時間によっては、ここで午前になる。

現在に至るまで、ほぼ同じパターンを俺は繰り返している。

智子の部分が妻に代わっただけだ。
智子は、俺に我慢してくれていた。

俺が稽古から戻ってくるのを、辛抱強く起きて待っていてくれた。
俺はそれが当たり前だと当時思っていた。

Mちゃんは俺と同じ道場の子だったし、彼女は稽古に理解があった。
それにしても智子はよく我慢してくれたと思う。

どんな分野にせよ努力は尊いし、ある程度情熱を持って繰り返さないと、深みに行けないことを知っている子だった。

こんな俺の生活が普通でないというのは、妻と結婚して分かったことだ。
妻は、俺と暮らし始めて最大限にびっくりしていた。

夜、枕元でいきなり四股を踏み始められたら、寝静まった部屋で、いきなり刀を振り回すピウッという音が聞こえてくれば、誰だって驚くだろう。
俺は自宅ではいつも袴をはき、稽古着を着ている。

気持ちが引き締まるのと、いつでも稽古できるようにするためだ。
妻は俺のことを、もしかしたら頭が変なのではないかと思ったという・・・

無理もない・・・・今は妻も慣れたようだし、理解もしてくれているが。
だが、同時に俺も、理解のない妻にびっくりしていたのだった。

事実は妻が変なのではなく、智子が無理して俺に合わせてくれていた、ということだ。
後になって大切なことが見えてくることが多い。

因に、俺の家には一角が設けてあり、そこには色々な武器が置いてある。

真剣は流石に別にしてあるが、木刀、居合刀、十手、小太刀、長刀、棒、鉄棒等々、
バーベル、ダンベルetc・・・・

家の5人の子ども達はそれを当たり前として育った。
兄弟げんかはよくするが、武器を取っての喧嘩はない。

武器の危険、痛さを知っているからだ。
よく、十手対木刀の戦いなど、遊びで行なっているので指を叩いた時の飛び上がるほどの痛さなど知っているから。

却って平和が守られているように思う。
さて、智子には足という負い目があった。

だからだろうか、忍耐強く相手に合わせようとする。
東北人の粘り強さもあるのかもしれない。

この頃までの俺達は、信じられないかもしれないがほとんど喧嘩もなく、数年連れ添った夫婦のような感覚になっていた。
俺もそうだが、智子も俺に丁寧だった。

俺は何組かの離婚に向かったカップルを知っているが、何れのカップルも離婚への理由はそれぞれだが、共通していることがあった。
それは家庭内での言葉の荒さだった。

相手を「おい」と呼びつけたり、「・・・しろ」と命令したり、聞いていて俺ははらはらした。相手も不満そうな態度を取る。

当然だろうと思う。

実は、俺は妻でも○○さんと呼ぶし、丁寧な言葉遣いを心がけている。
もう一つ俺達にはルールがある。

相手の話はよく聞く、どんなにくだらないと思っても、たとえ隣のタマとミケの喧嘩の話でも、じっくりと共感しながら聞くこと。
この位だが、俺は智子とも上手くやっていたし、妻とも上手くやっている。

離婚に至る至らないの違いは、案外こんな簡単なところにあるのかもしれないと思う。
俺は、俺にとって勿体ないほどの智子に満足し、いよいよ両親や親族に紹介し始めた。

実はこれが躓きの始まりだった。

俺は、思い出すたびに胸が痛む。時には泣きたくなる。
何故、俺はもっと強く、聡明でなかったのだろうか、と。

いや、親や親族の親身に説得してくれた、別れるようにとのアドバイスはやはり良かったのかもしれない。
結論は分からない。だが、俺は一方を選択したのだった。

その間、俺はどれだけ苦しんだか、智子をどれだけ悲しませたか。
智子の足がもし悪くなかったら、俺は一緒になれていただろうに。

だが、こうも思う。智子の足が悪くなかったら、
きっと俺が好きになった智子とは別人格の智子だったろう。

仮に会っても、ここまで引かれ合うことはなかったろう。
俺が引かれて止まなかった智子の性格は、足の負い目から、それを耐えることから育てられてきたのだろうから。

俺の父は戦時中、零戦のパイロットだった。
戦闘機乗りは豪放かと思うかもしれないが、繊細で、細かいことに気がつくタイプが多いらしい。

そうでないと、パイロットにはなれないそうだ。
実際、父はその通りのタイプだった。

彼はよく言っていた。
暴走族は可哀相だ。大きくてもナナハンだろう。

あの年頃の時の自分は、二千馬力の戦闘機に乗って二十ミリ機関砲をぶっ放していた、と。
そしてその目で、父は智子の股関節脱臼を見抜いてしまう。

俺は智子を自宅に呼んだ。
智子は、それがどういうことか分かったのだろう。

精一杯のおめかしをして、緊張の極みで俺と自宅への道を歩んだ。
父、母、弟と俺、智子。

5人での食事は、結構楽しく盛り上がった。

弟は紀子とのことがゴタゴタになり始めた時期だったが、未だそれほど深刻ではなく、弟も智子のことを、両親にさりげなく褒めてアッピールしてくれた。

母と一緒に台所に立って、楽しそうに母と話す智子。
俺は内心、ほっとした。

智子は経歴も職歴も問題はない。
まずはカラーが、心情的に合うかどうかの相性が問題だった。

足のことは、その後のことだと俺は思っていた。

俺は智子を駅まで送った。
智子はほっとしたと話した。

母も父も、とても良い人だと。
ただ、智子の足のことを俺は父母に、弟に話さなかった。

智子にとってそのことが不満であったらしいことは、後で分かる。

帰宅すると、父母が智子を気に入ってくれたと聞いた。
まずは良いスタートが切れたと俺は思った。

父母に紹介した翌日、俺は智子の部屋にいた。
智子は、俺の両親に会うことができてほっとしたこともあるのだろう、智子の方から俺を求めてきた。

座っている俺の目をじっと見つめつつにこにこしながら近づいてきて、俺の両肩に手を置き、そのまま俺の頭を強く抱きしめた。

俺の顔は智子の胸の谷間に押し付けられた。

「ちょっと・・・苦しい・・・」

と俺が伝えると、智子ははっとしたような顔で俺の頭を離した。

それから自分の服を胸の辺りまでたくしあげ、乳房をあらわにした状態で再び俺の頭を今度は優しく抱きしめた。

俺は智子に抱かれたまま、智子の腰回りに手を伸ばし、智子のジャージをパンティごと引き下ろした。
智子の膝から下には手が届かなかったので、俺は足を使って完全に脱がせた。

触ってみると、智子は十分濡れていた。

俺は智子に頭を抱かれたままズボンを脱ぎ、息子を出した。
息子は天を向いている。

俺は智子の腰を少しずつ下げさせて、俺と智子を接触させた。

ただ、智子の足が開かないので、そのまま後ろを向かせ俺の腰の上に座らせた。

俺自身が智子の体内に沈み込んだ。

俺は両手で智子の胸をもみしだき、智子は俺の腰の上で身体をがくがく揺すった。
愛液が俺の太ももを伝って落ちた。

俺は往きそうになってきて、

「ちょっと・・・もうだめみたいだから・・・・」と智子を止めようとするが、「今日は、大丈夫なの・・・・」と智子は動きを止めない。

俺は彼女を引き離そうとするが、彼女は無理やり俺の息子をねじ込んだまま、退こうとしない。

トリガーが引かれ、俺は遂に智子の体内に体液を送り込んだ。
智子は、「感じる、Hさんが入ってくるのを感じる・・・」と言いつつ、ぐったりとなった。

智子に聞いたところ、安全日であることも確かだったが、それよりも注ぎ込んで欲しかったのだという。
俺との絆を深めようとするかのように。

俺はいつも智子とは膣外射精で避妊していた。

これが危ないことは聞いていたし、読んでいたが、今まで失敗したことが無いので俺は高をくくっていた。
彼女は俺とだけだったし、俺も同じだったから病気の心配はなかった。
(後でエイズの恐怖におびえたことは、先に書いた)

膣外射精は、やはり危ないようだ。俺の5人目の子どもがそうだった。
膣外射精で生まれてしまった。

生まれたら可愛いし、かけがえのない子どもだが、予期しない子どもだったのは確かだ。注意した方が良いと思う。
智子は、俺の両親を食事に招待した。

ご馳走していただいたお礼として、レストランの席を取っておいたのだ。
幸いにして、両親はいたく満足した。

何より心遣いができることを評価したのだった。
帰り、俺は智子と別れて両親と一緒に実家に帰ることにした。
帰りの車中、父が俺に聞いた。

「智子さんは、足が少し悪いのか?」

パイロットは歩き方と靴底の減り方で、適性があるかどうか分かるのだそうだ。
そういう目で父は他人の歩き方も見ていた。

俺は、少々ためらいながらも智子の股関節脱臼のことを話した。
父と母の顔色が変わるのが、雰囲気で分かった。

何故、そこまでびっくりするのか、俺には分からなかった。

実は、遠い親戚に同じ股関節脱臼の人がいて、彼女の苦しみを両親は見知っているのだった。

「智子さんがとても良い子だということは、二回会っただけで分かった。しかし、股のことをなめてはいけない。苦労することになるぞ。」

父母は、俺達が別れた方が良いと進言し始める。

俺にとっては、少しは予想していた反応だったが、父母は頑強だった。言葉は丁寧だったが、許さないという雰囲気があった。

そこで、俺は両親に反対したが、実は俺の内心に、両親の言うことも尤もかもしれないという思いがあったことも確かだった。

何度智子の足が何ともなかったらと夢想したことだろう。
それさえ無ければ、最高の女なのに・・・・と思ったりもした。

俺は卑怯だったと自分で思う。

足が悪くなければ愛せたのに、なんて言うのは愛情ではないと今は断言できる。
足のことさえ無ければ最高の女・・・・などと考えること自体、俺の卑怯さが現れている。

本当は、足のことがあるがゆえに、智子は最高の女だったのだ。
人を愛するとは、愛情を積み上げて行くというのは、欠点や欠けたるところも一緒に抱きしめて、共に生きて行くことだと今は思うし、

今なら俺はそう生きる。もう、帰らない日々ではあるが・・・・・
智子は、俺に両親のことを聞きたがった。

できるだけ両親を理解し、上手くやって行きたいと思ったのだろう。
俺は、内心痛々しい思いを抱きながら、彼女からの問いに答えた。

両親が智子と別れるように言っているなど、どうして彼女に伝えられるだろう。
俺を信頼しきっている智子の視線が、俺には痛かった。

智子の優しさが、俺にとって重荷になりつつあった。
ある時は、両親から離れても智子と結ばれようと思う。

実際、俺達はほとんど夫婦のように生計を共にし、生活していた。
このまま婚姻届を出せば良いだけのことだ。そうだ、そうしようと思う。

が、ある時は両親を離れ、智子と祝福されない結婚をして良いものだろうかと思う。
俺は、精一杯両親の説得に当たった。が、両親は折れない。

以前、智子と俺がデートした時に会った伯母も、俺の説得に来た。
智子を諦めるようにと。

実は股関節脱臼の遠い親戚とは、伯母に近い人だった。
悲しい実例を挙げて反対される度に、俺は打ちのめされた。

この頃から、俺は夜うなされるようになってきたようだ。

智子から翌日、

「悪い夢でも見ていたの?」
「いや、別に・・」
「だって、うなされていたよ」

今までも、会社の中でも意にそわない事は沢山あったが、俺は結構眠れた。
頭を切り替えているから。

だが、智子との事は、俺の心に重くのし掛かった。切替えなんか出来ない。
智子に、そのまま話せれば良かったのだが、俺は話せなかった。

話したからとて、どうなったろう。智子を苦しめるだけではないか。
俺は幾多の思いを内に秘めて、悩むのが苦しかった。

智子は俺に両親に会ってくれなど、言わなかった。
俺はそれ故、智子が未だ結婚について余裕を持っていると勘違いしていた。

智子は、俺が両親に会わせてくれと言ってくるのを待っていたのだろう。
待ちに待っていただろうということが、今ならば分かる。

そして、それを言い出せなかった智子の気持ちは、辛かっただろう、切なかっただろうと思う。
俺が智子に何か隠していることは、彼女も薄々感じていた。

秘密はピンとくるものだ。

俺はしていないが、浮気がばれるのも、きっと同じなのだろう。
決定的証拠を握れないから、相手を責めることはできないが、何かがある、何かおかしいという直感は働くものだ。

俺の視線、雰囲気、その他に以前とは違うものを感じていた智子は、それでも俺に優しかった。
きっと信じていてくれたのだろう。

セックスは、よほどの事が無い限り拒否されなかった。
俺は、結論を出すのを先延ばしにしていた。

そして、その間智子の肉体を味わい続けた。
何と俺は智子に甘えていたのだろうか。

智子は俺に結婚についてずばり切り込んでくる事はなかった。
だが、遠回しに淋しさ、不安を俺に訴えるようになった。

「私たちのこの生活・・・・・ずっと続くといいんだけどな・・・・」
「そうだね・・・・」
「ずっと続く?」
「・・・・ああ・・・・」

何とも言えない歯切れの悪さが俺にはあった。
やがて智子は、時々シクシク泣くようになってきた。

「いいね、Hさんは。お家が近くにあっていいね。・・・・」

智子のホームシックは、俺と暮らすようになってから出なくなっていたのだが、再び出始めた。

この頃になると、彼女は俺を問い詰めたりしなかったが、俺の両親が智子の足の事で結婚に反対している事が、彼女にははっきり分かってきていたようだ。

明るく振る舞うのだが、やはり無理がある事が俺には見て取れた。
俺は、智子の足の事で医学的に駄目ならば、宗教に救いを求めてみたりした。

智子に内緒で幾つかの教会に行ってみた。
だが、牧師の話を聞いて失望した。

バイブルには病人が、身体の異常が癒された話は沢山出ているのに、今はそんな現実はないのだそうだ。
俺は、暗たんたる気持ちで教会を後にした。

今の俺は教会に行っていないが、バイブルを座右に置くようになったのはこの時の経験が元になっている。

その時俺が突然訪れたある教会で、一風変わった牧師に会った。
その後連絡を取り続ける事になるが、彼から今の妻を紹介してもらう事になった。

智子の股関節脱臼が無ければ、俺は妻とも巡り合っていない事になる。
女神湖の偶然の出会いが、多くの人の人生を変えた。

今思っても不思議だ。

最近、俺は大いなるものの意志を感じるようになってきている。
俺は結論を先送り先送りにしていた。

必ず下さねばならない結論を。
両方に良い顔をして、にっちもさっちも行かなくなり破滅に至る、典型的なパターンだ。

智子は、チラチラ俺に漏らすようになってきた。

「私の事をね、好きだって言ってくれる人がいるの」

俺はドキリとしながらも

「そう、どんな人なの?」
「いい人よ。同じ銀行の同期なんだけど、大学院を出ているから年齢は私より上」
「そうか・・・・」

俺はあえて突っ込まなかった。

智子はホッとため息をついた。このため息の意味を俺は取り違えた。
智子が俺に探りを入れていたのだろうとその時は思ったが、実は智子の話は本当だった。

きっと俺に対する呆れ、哀しさ等入り交じったため息だったのだろう。
智子は時々俺に彼のことを話すようになった。

「好きだって、言われてしまって・・・・困ったな」
「物好きな男もいるものだね。」
「両親に会ってくれって、言われているの。」
「会うのかい?」
「ううん・・・でもね・・・・・」

智子が迷っていることは、言葉の端々から感じられた。

俺はが智子に「そんな男と付き合うな、俺に付いて来い」とでも言えれば良かったのだろうが、言えなかった。

却って、智子が彼と付かず離れずでいてくれたら、等と俺は思ったものだった。

我ながら呆れるが、俺は彼を智子と別れる時の保険にしようと考えたようなのだ。
別れても智子がさして傷つかないための保険に。

だが、実際彼と智子が結ばれた時、ひどく傷ついたのは俺の方だった。
ある日智子に言われた。

「ねえ、私たち、いつまでにはっきりするのかしら?」

俺が一番恐れていた質問だ。

「いつまでって言われても・・・・・」

俺は誤魔化そうとしたが、智子の目は俺を見つめて離れない。

「○月までには・・・・」

俺は期限を区切った。

「そう、なら後○ヶ月ね。わかったわ。」

その時から、智子は残り月を指折り数えるようなしぐさを見せるようになった。
そのしぐさに、俺は言いようの無いプレッシャーを受けた。

智子の分からず屋、とまで思ったりした。
だが、この辺りから、智子は俺を諦めようとし始めたのだという。

辛い辛い内心の戦いだったそうだ。

智子に惚れた銀行の同僚は、優秀だが地味で、風采の上がらないタイプだという。
私立大を卒業の後、国立大の大学院で修士を修めている。

最初、智子は彼を相手にしていなかったようだが、俺の雰囲気が変わってきたゆえの不安もあり、彼からの誘いで食事を共にするようになってきたようだ。

智子は、彼から好きだと言われた時、俺の存在と股関節脱臼の事を話したという。
彼は、それでも良いからと言ってくれたらしい・・・・

智子は後、彼と結婚する事となる。

俺が智子に言った期限の月が来る前に、俺に辞令が下りた。再び海外勤務。
プロジェクト関係だったので、今度は短期になりそうだったが、それでも一年を切る事はない。

俺は出発の準備を進めつつも、智子との事を考え途方に暮れた。
赴任まで、残りひと月を切っていた。

弟はこの少し前、紀子との事がようやく解決に至った。
俺は、そちらにも首を突っ込んでいたので、時間的にも精神的にも全く余裕がなかった。

ひどい労力だった。

夜の世界の住人とは、同じ人間とは言え波長が余りにも違い、興味深くはあったが同時に激しい疲労に襲われる日々が続いた。
俺は弁護士の友人と連日連絡を取り合い、事態を把握した。

智子も、紀子絡みなので俺に負担をかけまいとしてくれていた。
俺は疲れて帰った後、智子を抱き、心の疲れを癒してもらった・・・

友人の努力によりもめ事は遂に解決し、紀子は自由になった。
が、その時俺は心身共にほぼ限界に達していた。

胃がきりきり痛んだ。
数年後胃潰瘍で俺が入院した時、胃カメラを飲んでみたところ、新しい胃潰瘍よりも広範囲に旧い胃潰瘍が治った跡がくっきりと見えた。

医者に「君、何だい?このひどい胃潰瘍の跡は」と言われた。
これは、この時のものではないかとも思う。

俺は両親相手に最後の交渉をした。
智子と結婚したい事を。

智子は素晴らしい女性である事を主張し、何とか許して欲しいと訴えた。が、結果は駄目だった。
俺は、やはり智子の足のこともあり、強引に押し切ることもできなかった。

俺自身、やはり引く所があったのだと思う。
結婚は両性の合意によって行われる。

俺には、智子との結婚に踏み切ってしまう道もあった。
が、俺は海外に赴任する。

智子を連れて行くのか、となると踏み切れない。
では、一年以上智子を待たせるか?

この期に及んで俺は未だ迷っていた。
迷っていたって、智子はどうすれば良かったのか?

実は、俺は智子の事よりも、自分の事で精一杯だった。
智子には可哀相なことをしてしまった。

遂に俺は智子とじっくり話し合った。
内容については、詳しく書けない。

後に結婚する事になる同僚の事も、ここではじめて詳しく聞いた。
同僚は良い人だが、やはり俺と一緒になりたかったと、智子は泣きながら言った。

彼の両親から、智子の両親に連絡が行っていたことも分かった。が、智子の両親は、その申し出を断っていたそうだ。
智子が俺と結婚したがっていることが、智子の両親にも分かっていた。

俺は、その話を聞いてショックを受けた。
智子の両親を、兄弟を裏切ってはいけない。

俺は、二人で駆け落ちすることも考え、智子に話した。
しかし、俺の両親から離れて、俺達だけで暮らす事、それは智子の望む事ではなかった。

智子は両親から愛されて育った。
智子は俺の両親を大切に思い、仲良く暮らしたかったのだ。

俺は地団駄踏んだ。智子の分からず屋。
が、ここまで彼女を追い込んだのは、まさしく俺だったのだ。

「そう・・・・わかったわ・・・・・」

涙を目に一杯浮かべて智子が振り絞るように言った言葉だ。
終わりの言葉だった。

この日から、俺は智子に手を出すのを止めた。
翌日、俺が智子の部屋に行ったところ、智子は帰っていなかった。

稽古を終え、勉強を終えた夜の12時を過ぎても帰らない。
俺は待ちくたびれて、眠る事にした。

俺は一人で横になった。智子の部屋に、智子がいない。
何とも淋しいものだ。その時俺は知った。

俺が来ない夜、智子はこういう淋しい思いをしながら寝ていたのだ、と。
何時かは俺と結婚する日が来ると、それを楽しみにしていた智子だった。

その支えが失われた時、智子は足下が崩れるような悲しみと衝撃を覚えたことだろう。
俺はどうして智子を責められるか。

水銀灯の光が、電気を消した部屋を照らしている。
俺は寝付けなかった。

智子は一体何をしているのだろうか? 何かあったのではないか?
智子の好きな小さな熊のぬいぐるみが、俺をタンスの上から見つめていた。

この日、智子は帰ってこなかった。
俺は、自分で朝食を作り、出勤した。

その晩も智子の所へ、俺は行った。
稽古をした後、夜12時まで俺は智子を待ち、眠った。

昨夜と違っているのは、智子が帰ってきたことだ。
俺は智子の布団も敷いていたので、智子はそこに寝た。

朝、俺は智子がいる事に気付いた。
午前5時頃だった。俺が智子を見つめていると、偶然智子が目を開けた。寝苦しかったのだろう。

「ごめんなさい・・・・・」智子が俺に言う。
「彼の所に、泊まってきたのかい?」

智子は頷いた。

俺が智子を見つめると、智子は俺から視線をそらせ、

「もう、私はHさんのものではないの・・・・」

そうか、そうだろうな、と思いつつも、俺は内側から暴力的なものがこみ上がってくるのを抑える事が出来なかった。

俺は、智子のパジャマをたくしあげ、乳房を露出させた。
智子ははっとした顔で俺を見つめ、無言のまま俺に抵抗し始めた。

抵抗しながら智子は泣き始めた。

彼女の抵抗は、俺の手を突き飛ばすなどではなく、たくしあげられたパジャマを元に戻し、俺が脱がそうとするジャージとパンティを引き上げる事だけだった。

俺にとって、完全に智子の身動きを取れなくするのは簡単だったが、悲しみが込み上げ、俺は腕から力を抜いた。
俺がひどく落ち込んだように見えたのだろう、智子はいつもの優しい智子に戻った。

涙を浮かべた目で俺を見つめ、

「ごめんなさい、ごめんなさいね・・・・」
「いや、いいんだ・・・」
「・・・・・・・・」
「ごめん・・・・犯されると思った?」

智子は頷いてシクシク泣き始め、その声はやがてエーン、エーンという泣きに変わった。

そして、俺の肩によりかかり泣き続け、俺が横になると智子は俺の上にうつ伏せに乗り、そのまま俺の胸に顔をすり付け、涙をこぼしつつ泣き続けた。

俺は、智子のジャージやパンティの中に手を入れ、智子自身を触る事が出来た。
抵抗はない。やがて濡れてきた。

が、もう俺は智子を犯す気にはなれなかった。
「お別れだ・・・・」俺が言うと、智子は嫌々をしながら、俺の上で泣き続けた。

俺の目にも涙が浮かび、不覚にも俺もボロボロ涙をこぼして泣き始めた。
出勤の時、俺は智子に部屋の鍵を返した。

もうここには来ないという俺の意思表示だった。
子は鍵を受け取り、鍵を見つめ、その目には又してもみるみる涙が溢れてきた。

「もう、見ないで・・・」

俺は智子を見つめた。智子を見た最後だった。
俺には、これでもう智子と会うことはあるまいと、予想ができていた。

俺はじっと智子を見つめた後、意を決した。
玄関で、靴を履く。智子は、その場から動かず、俺を見つめていた。

俺は、もう一度智子に視線を送り、彼女に微笑みかけてから、扉を閉めた。
俺は、扉の外で深いため息をつき、悲しみを振り払うために歩き始めた。

一人で駅までの道のりを歩く。
智子は俺を追ってこなかった。

いつも二人で歩いた道だった。が、1人で歩くのは今日が初めてだった。
楽しかった思いでが、走馬灯のように蘇ってきて、俺は切なくてたまらなかった。

数日後、会社に智子から電話があった。
一度アパートに来て欲しいという。

車で来て欲しい、という但し書きが付いていた。
智子の声を聞いた最後だった。

智子のアパートに行くと、雰囲気ががらんとしていた。
ノックしたが、誰も出てこない。鍵は開いていた。

扉を開けてみると、智子はここを既に引き払っていた。
がらんとした、寒々とした部屋。智子との思いでが一杯詰まった部屋。

俺は哀しかったが、今となっては智子の気持ちも分かる。
俺との思い出が一杯に詰まった部屋には、智子はもはやいられなかったのだろう。

部屋の片隅に、俺の持ち物全てがきちんと並べられておいてあった。
智子らしい、几帳面なやり方だ。

シャツやスーツは全てクリーニングしてあり、下着や靴下には丁寧にアイロンがかけられ、畳んであった。
俺の稽古具・稽古着もそうだ。

きれいに洗濯された稽古着からは、香水の香りがした。
稽古着の汗臭さを消すために、智子がいつもかけていたものだ。

俺の本・資料。きちんと整理されていた。
通帳、ハンコ。残高はきちんとしていた。

智子は最後まで俺に優しかった。
きちんと畳まれた俺の下着を手に取ってみた。

鼻に押し付けると、智子の香りがした。
この香りを消さないで残す方法はないだろうか。

考えながら、目から涙がこぼれるのを止める事が出来なかった。
俺は突っ伏して、ウーウーと声を押し殺しつつ泣き続けた。

智子がどこへ行ったか、気にはなった。
が、俺は智子を追いかけたりしなかった。

調べようと思えば調べられたのだが、どうして智子を追いかけられようか。
俺の弱さ、愚かさのために、苦しみ、

彼の元に走った智子をどうして責められようか。
俺は智子を諦めたはずだった。が、諦めきれない未練が俺にはあった。

彼氏に対する嫉妬もあったと思う。
これは若さ故の過ちと言えるのだろうか。

馬鹿だ、馬鹿だ、俺は馬鹿だった。
智子を彼氏に追いやったのが自分で、その彼氏に嫉妬するとは。

正直に言うと、逃がした魚は大きかったのだ。
事実、智子はいい女だった。

今の俺は、もうこんなことで苦しみたくないとつくづく思う。
だから、俺は妻をとても大切にしている。

苦しい思いのまま、やり切れなさに苦しみながらも俺は出国の準備をした。
夢中で仕事をすれば、智子のことを一瞬でも忘れられた。

次の週には、俺は新しい赴任地に旅立った。
俺は、感情に左右される弱い人間ではないと自分では思っていたが、心にぽっかりと開いてしまった穴は、埋めようが無かった。

俺は自分の弱さに自分でがく然とした。
何か、嬉しい事が、楽しい事があると、智子を探す俺がいる。

共に喜びを分かち合って欲しいのだ。
悲しい辛い事があったら、俺は智子を探す。

話しを聞いて欲しい、そして、今までのように優しく抱きしめて欲しい。
日本では見られない美しい景色を見る時、
俺は隣に智子がいるかのように話しかける。

「なあ、きれいだろう・・・・」そして、俺は我に返り、自分の失ったものの余りの大きさに途方に暮れるのだった。

数年後、智子から俺に手紙が来た。
智子の住所は記載されていなかった。

俺の実家から、海外の俺に転送されてきた手紙は、俺には懐かしく、手紙を持つ手が震えた。
懐かしい智子の文字と、香りが手紙から立ち上った。

簡単な内容だった。
幸せで元気にしている事、時々俺の事を思い出す事、子供が二人いる事。

足は今のところ、大丈夫であること・・・・

俺の肩越しにのぞき込んだ妻に、俺は手紙を見せて、「昔のガールフレンドからだよ」と説明した。

妻はそれを読んで、「ふーん」と言ったきり、向こうへ行ってしまった。
簡単な内容だったのは、妻の事を慮ってくれからだろう。

だが、一語一語に、俺達でなければ通じない意味が込められていた。
俺は嬉しかった。と同時に、智子と別れた事の重みを俺は感じていた。

俺がプロジェクトの仕事を終え帰国した時、俺は30歳になっていた。

智子との事は、俺にとって傷になっており、結婚など考えられない状況だった。
見合い話は幾つかあったが、会う気にもなれなかった。

智子と築き上げたあれだけの日々を、他の女性と共有する事は、できないと思った。
俺は、帰国の挨拶をあちこちにした。

先に出てきた牧師にも、俺は挨拶しに行った。
彼を知れば知るほど、俺は彼を尊敬した。
年齢は俺よりだいぶ上だったが、言葉と経験に嘘が無い人だった。

色々話に花が咲いた後、彼は俺におもむろに

「ところで、君は結婚をどうするつもりなの?」

俺は、Mちゃん、Sさん、智子との事など包み隠さず話し、結婚は当分考えられない旨伝えた。

「そう、君の言うことは分かるけど、実はとても良い娘さんがいるんだ。私は、祈っている時彼女と君の事が浮かんでならないのだよ。運命だと思って、一つ君、彼女と会ってみないか?」

俺は、彼の顔を潰してもいけないし、運命と言う言葉に引かれ、彼女と会う事にした。

妻との出会いだった。

牧師の家で、俺達は会った。会ってびっくりしたのは、彼女の顔だった。
真ん丸顔に、八重歯が大きく、化粧をほとんどしていない。
すぐに赤くなるのが彼女だった。

眼鏡をかけているが、それは牛乳瓶の底のようだった。
おまけにチビで胴長短足。

身長は俺より大分低いのに、座高はそれほど変わらなかった。
写真はすでに見ていたが、これほどまでとは思っていなかった。

俺が今まで付き合ったMちゃん、Sさん、明美、智子は皆可愛かったり、顔立ちが整っていた。
スタイルもよく、連れて歩くのに恥ずかしくない子達だったのだが、彼女は全く違う。

牧師は席を外し、俺達は二人だけで延々語り合った。
彼女の生い立ちを聞いて、考え方を聞いて、俺の話も聞いてもらった。

彼女は6人兄弟の長女だった。父親は牧師。
男兄弟は、後に高校教師、1人は言語学者になる。

俺達は最初から、突っ込んだ話をした。
時々、牧師の奥さんが俺達にお茶を持ってきてくれたり、お菓子を運んでくれたが、それ以外は二人切り。

俺達は午前10時から、午後5時まで語り続けた。
俺は、彼女の聡明さに驚いていた。何より、俺の話をきちんと聞き、内容を的確に捉えることに驚いた。

また、俺も彼女の話を聞き、精一杯理解しようとした。

別れる時、

「もう一度お会いできますか?」
「ええ・・・」

彼女は微笑んで頷いた。
彼女を送った後、俺は教会に戻った。

「どうだった?」牧師に聞かれた俺は、「よく分かりませんが、もう一度お会いできたらと思っています」

「そうか」と彼はにこにこほほ笑みながら、「私が保証するよ。君にとって最高の女性だ。彼女と結婚したらどうか?」
俺は笑って、

「保証するといっても、どうやって保証するのですか?トラブルが起こったら、どうします?」

彼は笑って、

「俺に文句を言われても困る。文句があるなら、俺にそのことを示した神様に文句を言ってくれ」

俺は大笑いした。が、実はその時彼女との結婚を俺は決意したのだった。

ああでもない、こうでもないと考えて、逡巡する事に俺は飽きていた。
そこから何も生まれはしない。

どうでもあれ、清水の舞台から飛び降りるような気持ちであったとしても、進む事が大切な時もある。
俺は、一度会ったきりで妻と結婚する事を心に決めていた。

実は、妻も同じ気持ちだった事を後で聞いた。
俺のことを、彼は貴方に最適の人だと妻に話していたのだった。

俺達は、彼を信じて見ず知らずの相手と結婚することにしたのだった。
そして、俺達の信頼は裏切られなかった。

俺達は見合い結婚ということになるのだろうか。
恋愛花盛りだけど、見合いとはそんなに悪いものだろうか?

俺はそうは思わない。

俺の場合も、牧師が妻の家庭のことや、妻が幼い時からの育ちを見ていたため、妻以上に妻のことをある面把握していた。
だから信頼できたとも言える。

俺は高二の長女を見ていてつくづく思う。女は化ける、と。
家の中での姿と、外での姿が全然違うのだ。

外では、実に物分かりの良い可愛い優秀な子を演じる娘。
しかし、家の中では・・・・

弟である長男などは、その変化ぶりが許せないと息巻いている。
何れにせよ、恋愛でその女性の本当の姿を見ぬくのは、時間をかけないと難しいのかもしれない。

その点、見合いはある程度分かり合った上で両者が会う。
紹介者が信頼できる人であることが一番大切だが、そうであれば見合いは悪くないと思う。

その後、妻とは2回デートした。個性的な妻の顔は、俺にはもう気にならなくなっていた。
というよりも、不思議だが可愛く思えてきたのだった。

世間の諺で、ブスは三日見れば慣れるというが本当だ。
実は、顔よりもっともっと大切なものが沢山あるのが結婚生活だ。

色々話したが、話は、結婚後の生活設計の所にまで進んだ。
俺からの特別なプロポーズの言葉はなかった。

「このまま行きましょうか?」
「そうですね」

強いて上げれば、こんな感じだろうか。

今思うと不思議だが、お互い結婚は当然のものとして話を進めていた。

善は急げだ。俺達は牧師に結婚する旨伝え、祝福してもらった。
大切なことは、一気呵成に事を進めることだと俺は思った。

迷ってはいけない。
戸惑ってはいけない。

俺は両親に妻を会わせ、「俺はこの人と結婚する事に決めたから」で押し切った。
幸いに両親は、反対しなかった。

弟は全く関知しない所で話が進んだ。
俺は妻の両親に会い、結婚の承諾を貰った。

牧師から話が行っていたので、結論は早かった。

それから俺の両親を紹介し、両家の和やかな雰囲気を確認した後、その日のうちに俺は妻を入籍した。

そして次の週には結婚式に臨んだ。

俺達が初めて会ってから、3週目で入籍、ひと月後には結婚式だった。

このテンポの早さに両親は少々戸惑ったようだったが、俺達のするがままにさせてくれた。
妻の両親は、牧師である関係上、そういったことには無頓着で、俺達のスケジュールに合わせてくれた。

結婚式の3日前に、俺は弟に電話した。
弟は開いた口がふさがらないといった風情だった。

弟は、紀子と別れていた。どういう経過があったのかは、分からない。
聞いてもいない。

後に弟は、東証一部上場企業の副社長の娘と結婚する。

弟は結婚式に、研修を休んで駆けつけてくれた。

弟は会社の上司に「兄の結婚式ですので、明後日は休ませて下さい」と伝えても、信じてもらえなかったという。

「君の兄さんは、親から勘当されているのか?」
「そんなところです」

ようやく許してもらえたという。

式の当日妻を見て、俺を見た弟は、モーニング姿の俺の胸を拳でどんと叩いて、ニヤリとした。
俺もニヤリとし、妻は微笑んだ。

このニヤリの深い意味は、妻には分からなかったようだが、何か深いものがあるということだけは分かったとのこと。

智子が彼氏とすぐ結婚したわけは、私が妻とすぐに結婚したのと同じ理由だと思います。

妻との結婚の時は、私は両親に迷う余裕を与えませんでした。

智子の時は折れたが、今度は絶対に折れないという気迫を持って、私は両親に迫りましたし、両親もその雰囲気を察していました。
また、妻は経歴上も健康上も、両親が反対する理由を見いだせませんでした。

経験すれば分かります。

忘れたいが故に、直に彼と、彼女と結婚する。お互いに愛し愛されている二人なのですから、結婚に何の問題もありません。ただ、迷ったり逡巡したりするのが怖いのです。

結婚式は牧師の教会でだった。
披露宴も教会で。費用は実費数万円のみだった。

信者さん達の心がこもった手作りの料理で俺達は祝われた。

妻は処女だった。
その時まで、俺は妻と一度牧師の前で握手しただけで、手を握ってもいなかった。

俺達は、小さなアパートで結ばれた。

新婚旅行はなかった。

土曜日に結婚し、日曜日に牧師の教会に出席し、結婚のお礼と報告をし、俺は月曜日から仕事に入った。

新婚家庭は小さなアパートから始まった。
家具は何も揃えていなかった。

あっという間の結婚だったので、何もない状態からのスタートだった。
俺の持ち物は、智子の部屋で使っていた小さな机、本、武具、服。

妻はもう少し物を持っていたが、それでも6畳四畳半二間の小さなアパートが広く感じられた。
そう、冷蔵庫もなかった。

発泡スチロールの箱に、ビニールに入れた氷を入れて冷蔵庫の代わりにした。
洗濯は、お隣の洗濯機を借りて、小物はたらいで洗った。

テレビ、ラジオもなかった。

何も物はなかったが、俺達は幸福だった。

その後、俺達は5人の子宝にも恵まれ、平穏な人生を歩んできている。
夫婦仲は、波風が立つこともほとんど無く、とても良いと思っている。

家庭生活で気を付けているのは、お互いに礼儀正しくすること、相手の話をよく聞くこと、決して相手を追い詰めないことだ。
言葉を変えれば、許し合うこと。

それともう一つ、絶対浮気しないこと。
俺はこれが信頼関係の根本ではないかと思っている。

先日、俺は家族全員を連れて女神湖に行った。
以前は何もない所だったが、今度行った女神湖は以前より開けていた。

美しい緑の山々、木々、小鳥のさえずり、湖畔をわたる涼しい風。
オデッセイに7人乗り、俺は女神湖周辺を走り、智子との出会いの場所を見つけた。

何の変哲もない湖畔だ。
家族は俺がこんな場所に車を止めたことに少々文句を言ったが、俺は「俺達の原点なんだ。ここは」とだけ伝えた。

子供達を思い思いに遊ばせ、俺は1人で感慨にふけっていた。
俺はここで智子に話しかけたのだった。

「写真を撮ってあげましょうか?」智子は、ニッコリ笑って頷いた。

そこには敬子もいた。

もし、あの時合宿の勉強疲れで女神湖に気分転換に来なかったら、ここに来る時間が5分ずれていたら、智子達に声をかけていなかったら、妻も子ども達もいなかったはずだ。

そうだ。あの一瞬が俺達の運命を分けたのだった。

俺はその不思議さを思った。

その時突然、俺は激しい感情の波に襲われた。

淋しさ・悲しさ・後悔とも愛おしさともつかない複雑な感情が腹から突き上げ、目に涙が溢れてきた。

もう戻ることの無い青春時代、俺達は真剣に生きた。
真剣ながらも、その未熟さ、青臭さの故に相手を傷つけてしまうことが多かった。

今の俺なら、ああはしなかった、こうはしなかった・・・・
しかし、時はもう戻らない。俺は1人涙をぬぐった。

智子、今どうしているのか・・・・

長く続いた書き込みも、いよいよ終わりになった。
俺は妻とどちらかが死ぬまで添い遂げることになるだろうと思う。

共に暮らした平凡な、18年の歳月。しかし、俺はその重さを感じている。

Sさんから始まった初体験、
Mちゃんとの恋愛、失恋。
俺が初めて接する売春婦の明美。そして智子。

楽しかった記憶、辛かった思い出、あの時、あの時の俺の決断。

何れの決断も、別の決断をしていたなら、今の俺は無い。

妻も、子供達も、別人だったろう。
考えても、詮の無いことかもしれない。それでも思う。

俺がMちゃんと、智子と一緒になっていたら、どういう人生を歩んでいるだろうか、と。
今以上に幸福だったろうか、と。

考えても仕方ないことだが、俺は願う。

俺と関係を持った一人一人が今、幸福であって欲しいと。
確認する術が無いのが、余計悲しい。

ただ、祈り願うだけだ。

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